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年周地殻変動と積雪荷重

国立天文台地球回転研究系 日置 幸介

国土地理院による汎地球測位システム(GPS)の連続観測網GEONETは,わが国の地殻変動の様々な姿を明らかにしてきました.これらGPS観測点の座標には,静かに進行する地震間地殻変動に加え,振幅数mmの明瞭な季節変化成分がしばしば見られます.これらの季節変動成分の位相が全国的に揃っており,かつ振幅が系統的に分布することがMurakami and Miyazaki(2001)によって見出されました.彼らは石川県の小松(図1)を固定し,季節変動成分の向きが島弧の走向に直交し(つまり海溝でのプレート収束方向に一致),かつその振幅が地震間変動の大きさに比例していることを示しました.これは海溝で沈み込むプレートの速度,あるいは境界でのプレートの結合が季節変化しているという驚くべき可能性を示唆します.これはわが国における地震発生の季節性との関連も暗示し多くの研究者の興味を引きましたが,GPSデータの年周成分を新種の誤差と考える研究者も少なくありませんでした.最終的にこの年周変化の主な原因は積雪荷重であることがわかりました(Heki, 2001).

 GPS連続観測点の一日毎の座標値は,国土地理院のウェブサイト(www.gsi.go.jp)から取得できます.ここで紹介するデータは1998年末から2000年末までの東北地方のGPS点のものです.図2上は雫石―山田,鳴子―女川の東北日本・太平洋側の基線長を,図2中は雫石―五城目,鳴子―飛島の日本海側の基線長の二年間の変化を示しています.日本海側が冬に縮む明瞭な季節変動を示す一方,太平洋側では季節変動そのものが小さく,かつ夏に縮む反対の傾向を示します(北上山地にある江刺地球潮汐観測施設の石英管伸縮計も同じく夏に縮む年周変動を示します).もし季節変動の原因がプレート運動速度やプレート間結合の変動なら,脊梁山脈のどちら側の季節変動も同位相で,振幅は永年短縮成分の大きな太平洋側の方が大きいはずです.また上下成分についてもほとんどの点で冬季に沈降する傾向がみられますが,沿岸部より島弧中央部の鳴子や雫石で振幅が大きい傾向があります(図2下).海溝起源のメカニズムではこのような水平変動,上下変動のパターンは説明できません.

 「明瞭な四季」は日本の自然を語る際のキーワードですが,日本海側の積雪はその最たるものでしょう.冷たく乾燥したシベリア気団は冬の季節風にのって日本海上を通過する際に湿った空気に変質します.それらが日本列島の脊梁山脈に衝突し,秋田,山形,新潟などの山沿いを中心に豪雪をもたらします.これらの地域では晩秋に積もり始めた雪が二―三月に数メートルの深さとなり,高峰を除いて四−五月には融けてしまいます(図1).荷重は地球を弾性変形させます(一年周期なので粘性は考えない).上下方向では荷重の直下を中心として全体に沈降するのに対し,水平成分では荷重が分布する地域は短縮,周辺地域は反対に伸張するというパターンを示します.GEONETで冬季に日本海側の基線が縮み,太平洋側の基線が伸びるのは,脊梁山脈の日本海側に沿って南北に分布する積雪荷重がもたらす弾性変形として定性的に理解できます.また荷重が最大となる脊梁山脈地域で冬季の沈降が最大になるのもうまく説明できます.

 次に積雪荷重と年周地殻変動の量的関係を検証してみましょう.東北日本にある88のGPS観測点の二年間にわたる位置変化の時間変化を,直線成分,年周および半年周成分の和で表し,回帰後の残差が水平成分で4mm以上,鉛直成分で15mm以上となる13点を棄却します.残った75点の位置変化の周期成分が三月中旬と八月中旬にとる値の差をとり,それらを積雪荷重による地表変位と考えます(図3中).地表の単位荷重がもたらす変位(Farrell, 1972)を偏微分係数,観測された変位をデータとし,荷重分布を最小二乗推定してみます.ここでは東北地方を50km×50kmのブロックに分け,ブロック毎の荷重の大きさをパラメータ推定しました.推定された荷重から計算した変位(図3左)は観測された変位(図3中)とよく一致します.

 観測値と計算値の差(図3右)は水平成分で約1mm,上下成分で約3mmと観測誤差程度に小さく,モデルが正しいことを示しています.図では残差が極端に大きな点がいくつか見られますが,これらの多くは山沿いで局地的に積雪が深い箇所です.国立天文台のある岩手県水沢市の積雪は高々数十センチですが,約20km離れた夏油高原スキー場の積雪は4mを超えることがあります.地理的に近くても標高や日照等の違いで積雪量はしばしば大きく異なります.荷重は力として推定されますが,適当な平均積雪密度を仮定すれば積雪深度に換算してアメダスの積雪データと比較することができます.奥羽山脈では例年蔵王スキー場ロープウェー山頂駅近辺で積雪断面の定点調査が行われていますが,2000年は一月,二月に0.3g/cm3強であった平均密度が三月下旬には0.4g/cm3に増加,さらに黄金週間には0.5g/cm3を超えたことが報告されています(山谷他,2000).我々がスキーで体感する季節による雪の重さの違いは数値にすると意外に大きなことがわかります.ここでは三月半ばの平均積雪密度として一律0.4g/cm3を仮定し,推定された荷重を積雪深度に換算してアメダス自動積雪計による2000年3月15日のデータ(気象庁月報2000年6月号)と比較しました.

 GPSから推定された積雪量(図4下)と実測された積雪深度(図4上)の全体傾向は一致していますが,前者が後者より系統的に大きいように見えます.これはアメダス局が電話回線と商用電源を必要とするため集落に設置される傾向があり,特に山あいでは地域の平均的な積雪深度より系統的に小さい値を示すためでしょう.新聞の「スキー場情報」によると,同じ2000年3月15日のスキー場で実測された積雪深度は,アメダスはおろかGPSで推定された深度よりも大きな値を示します.これはスキー場が人里離れた積雪量の多い地点に建設されており,アメダスと逆の系統的なずれを示すためでしょう.アメダスでは北上山地の積雪はほぼゼロですが実際には多くのローカルスキー場があり,GPSの推定結果の方が感覚的に現実に近いように思います.なお積雪以外の陸水の季節変動による寄与はマイナーですが,雪融け水がいったん土壌水分や地下水として蓄えられることによって融雪期の急激な荷重減少をなだらかにする効果はありそうです.また東北日本では例年冬季の大気圧が夏季に比べて1kPa程度高くなりますが,これは積雪による年周地殻変動を10%程強めるはたらきをします.

 図2の基線長変化にみる右下がりの傾向は,沈み込む太平洋プレートに東北日本が西北西に押しつけられ年々縮みつつあることを示します.この静かな地殻変動によって蓄積された歪エネルギーは,わが国に海溝型地震や内陸地震をもたらします.積雪荷重はこの過程に一年周期の擾乱を与えているといえます.我が国の被害地震の発生時期に季節性があることは古くから知られています(e.g. Omori, 1902 ; Mogi, 1969).Ohtake and Nakahara(1999)は南海・相模トラフのプレート間地震の季節性(秋冬に多く春夏に少ない,図5右)が統計的に有意であることを示しました.さらに彼らは,冬季の大気圧の上昇が荷重として島弧を押し,プレート境界面のクーロン破壊関数(CFF)を増加させることを見出しました.しかし大気圧変化は1kPa程度,それがもたらすCFF変化は数十Paに過ぎません.これは永年的な歪蓄積速度(地震の応力降下を1MPa,再来周期を100年とすると約30Pa/day)に比べて小さく,地震発生の季節性との関連については否定的な見解を示しています.

 積雪荷重は最大で10kPaと気圧変動より一桁大きいのですが,同様な手法で計算したプレート境界でのCFF上昇はせいぜい0.1kPa程度で季節変動の原因とするのは困難です.一方積雪荷重の分布域と内陸地震の発生域はかなり重なっています.そこでは積雪荷重によって高角逆断層,走向移動断層を問わず断層面に垂直な応力が増加し(GPS基線が短縮することを思い出してください),CFFは減少します.その度合いは摩擦係数や断層の幾何学的条件で異なりますがkPaのオーダーとなり,歪の蓄積速度を考えると地震発生時期の季節性をもたらすのに十分な量です.岡田(1982)はM7以上の地震に限ると積雪地域の直下で発生する地震は春夏に多いことを示しました(図5左)が,融雪による荷重減少(CFF増加)が関係している可能性があります.地震抑えの「要石」は案外雪なのかも知れません.海溝型地震の季節性の問題は未解決ですが,積雪荷重よりは震源域直上の海水荷重の季節変化(潮位の季節変動から熱膨張分を差し引いたもの)に原因がありそうです.この問題は将来海底圧力計や衛星重力ミッションの恰好のテーマとなるでしょう.

 地震発生時期の季節性は対象とする地震のマグニチュード下限を下げると多くの場合不明瞭になります(岡田,1982).また潮汐で最大の振幅を持つ半日周潮がもたらすCFF変動(海洋荷重も含めて)は大きさのわりに地震発生時期と必ずしも有意な相関を見せません.規模の大きな地震は震源核形成などの「準備過程」に時間がかかるため,季節変動のようにある程度周期の長いCFF変化にしか反応できないのではないでしょうか.

図1 アメダスデータに基づく1999-2000冬の最大積雪深度(右)と,豪雪地域三点(岳,東成瀬,荒沢)における積雪深度の時間変化(左,横軸の1目盛は一ヶ月).白丸を結んだ基線長の時系列を図2で示す.

図2 図1で示した内陸部(雫石,鳴子),日本海側(五城目,飛島)および太平洋側(山田,女川)のGPS点を結ぶ基線長の二年間にわたる時間変化(上,中).下は鳴子と雫石の筑波(図1)に対する上下位置.一点が一日に相当,曲線は時系列を直線変化,年周・半年周変動成分で回帰したもの.永年的な短縮はすべての基線で顕著であるが,冬縮む季節変化は脊梁山脈と日本海側を結ぶ基線(中)でのみ顕著.

図3 東北地方のGPS点の年周位置変化を取り出し,夏(8/15)に対する積雪最大期(3/15)の値を積雪荷重による変位成分としてプロットしたもの(中).それらをデータとして最小自乗推定した荷重分布によって計算された変位(左),および残差(右).

図4 アメダス自動積雪計データによる2000年3月15日の積雪深度(上),およびGPSデータから推定された荷重分布を積雪平均密度0.4g/cm3を仮定して積雪深度に換算したもの(下).

図5 積雪地域(岡田,1982),および南海・駿河トラフ(Ohtake and Nakahara, 1999)における二ヶ月ごとの地震発生数のヒストグラム.勘定する地震のマグニチュードは7.0以上(左)および7.9以上(右).

参考文献

Farrell, W.E., Rev. Geophys. Space Phys., 10, 761, 1972.

Heki,K.., Science, 293, 89, 2001.

Mogi, K., Bull. Earthq. Res. Inst., 47, 419, 1969.

Murakami, M. and S. Miyazaki, Geophys. Res. Lett., 28, 2983, 2001.

Ohtake, M. and Nakahara, PAGEOPH, 155, 689, 1999.

岡田正実,地震,35, 53, 1982.

Omori, F., Pub. Earthq. Invest. Comm., 8, 1, 1902.

山谷睦他,東北地域災害科学研究,36, 171, 2000.


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