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2012年度日本地震学会論文賞及び日本地震学会若手学術奨励賞受賞者の決定について

公益社団法人日本地震学会理事会 


 日本地震学会論文賞および若手学術奨励賞の受賞者選考結果について報告します.
 2013年1月31日に応募を締切ったところ,論文賞9篇,若手学術奨励賞5名の推薦がありました.理事会において両賞の選考委員会を組織し,厳正なる審査の結果,2013年3月19日の第10回日本地震学会理事会において,下記のとおり論文賞3篇,若手学術奨励賞3名を決定しました.なお,授賞式は,日本地球惑星科学連合2013年大会時に開催予定の定時社員総会に合わせて行います.

○論文賞
1. 受賞対象論文 :
    南海トラフ巨大地震─その破壊の様態とシリーズについての新たな考え─
瀬野徹三
地震 第2輯,第64巻,第2号,97–116,2012
  受賞理由
     駿河トラフから南海トラフにかけたプレート境界における巨大地震は,トラフに沿って西からA, B, C, D, Eの五つの領域が,組み合わせを変えながら百数十年間隔で固有地震的に繰り返していると考えられてきた.昭和東南海地震で未破壊だったE領域(駿河湾奥)で起こると考えられてきたのが東海地震である.また過去の地震において未破壊に見える領域や地震そのものの欠落は,未発表の歴史資料・地震考古学資料の調査が進むことでいずれ埋められてゆくと期待されてきた.
 本論文では過去の研究を批判的に検討し,安政の地震と昭和の地震の時間間隔が約90年と例外的に短いことを議論の端緒として,巨大歴史地震の発生や断層セグメント分割に関して従来の考え方に対する問題点を整理している.さらに断層すべりの時定数をもとに,短周期地震波を励起する領域,津波を励起する領域,そして地殻変動をもたらす領域の三領域に震源断層面を分類し(それらは排他的でなく後者が前者を包含する),それらの空間分布から南海トラフ巨大地震の繰り返しの様態について議論を行った.その結果,安政東海地震では破壊域がE領域まで及んだにもかかわらず宝永地震では及んでいないこと,および安政東海地震と昭和東南海地震では短周期地震波放出領域が相補的であるという重要な指摘をおこなっている.
 従来,調査の進展で地震履歴の空白は解消されるという考えが支配的だったが,この論文では資料の多く残る宝永,安政,昭和の巨大地震の分析からこの考えに疑問を投げかけ,空白は空白として存在し,さらに同じ領域が異なる地震では異なる時定数で破壊する可能性を指摘している.これらをもとに,宝永・昭和型と安政型の二種類の巨大地震が400年程度の間隔で発生しているという仮説を提唱,巨大地震の連動性についての問題点,断層すべりの時定数が変化するメカニズム等,南海トラフ巨大地震について研究者が今後検討しなければならない重要な指摘を数多くおこなっている.
 この論文は総合報告であるが,多方面にわたる南海トラフ巨大地震に関する先行研究を批判的な視点でまとめ上げ,巨大地震についての著者独自の新たなモデルを提案している.ここで指摘されている論点の多くは,証拠が乏しく仮説の域を出ない.今後の研究によって否定されるものもあるかも知れない.それでもなお,この論文が読者に与えるインパクトは大きく,今後の研究の方向性へ与える示唆は多方面にわたる.これらの点から,本論文は日本地震学会論文賞とする.
 
2. 受賞対象論文 :
    新潟–神戸ひずみ集中帯を横断する測地観測による越後平野周辺の地殻変動
著者:西村卓也・水藤尚・小林知勝・飛田幹男
掲載誌:地震2,第64巻,第4号,211–222,2012
  受賞理由
     新潟県北部の越後平野は,新潟–神戸ひずみ集中帯に位置する.本論文ではGPS観測データを丁寧に解析することにより,越後平野の北部を中心とした領域での地殻変動場を明らかにした.東北地方太平洋沖地震による影響を除外するため,解析は地震前10年間とし,過去の測地測量結果との比較を実施している.その結果,新潟県北部のひずみ集中帯が北北東–南南西にのび,越後平野に対応することを明らかにした.また,越後平野における測地測量による約90年間の短縮ひずみ速度とGPS観測による短縮ひずみ速度がおおよそ一致していることを明らかにし,越後平野に集中する短縮変形が長期間にわたり継続していることを示したことは重要な成果である.さらに,GPS観測から越後平野での顕著な沈降を検出し,水準測量とも調和的であることを示した.
 上記で得られた継続的な短縮変形と越後平野での沈降を説明するために,地震発生層の深部でのすべりによるモデル化を試行した.その結果,越後平野の両端に平野を下盤側として地殻を貫く2つの逆断層面を置き,10?以深で非地震性すべりを仮定すると短縮変形のパターンが説明できるとし,さらに越後平野の沈降を説明するためには,上部マントルでの粘性緩和と重力の効果を考慮することが必要であることを明らかにした.
 このように本論文はGPS観測データと長期間の測地測量観測データを丁寧に解析し,それらを解釈することで越後平野におけるひずみ集中の成因について新しい知見を得ることに成功した.東側の断層面の傾斜方向や粘弾性モデルで用いた200年の繰り返し周期など,まだ問題点は残るものの,単純化したモデルで説明できる新しい知見を提供したことは画期的である.すなわち本論文の成果はひずみ集中帯における短縮変形のメカニズムおよび内陸地震の発生過程を理解する上で極めて重要な成果と言える.
 以上の理由から,本論文は日本地震学会論文賞とする.
 
3. 受賞対象論文 :
    Tsunami source of the 2011 off the Pacific coast of Tohoku earthquake
著者:Yushiro Fujii, Kenji Satake, Shin'ichi Sakai, Masanao Shinohara,
Toshihiko Kanazawa
掲載誌:Earth Planets and Space, 63, 815–820, 2011
  受賞理由
     本論文は2011年東北地方太平洋沖地震のすべり量分布を津波波形インバージョンによって推定し,速報として発表したものである.従来,津波は検潮所で観測されてきたが,近年,津波を観測するための機器開発が進み,この地震による津波も様々な津波観測機器(GPS波浪計,ケーブル式水圧計,ブイ式水圧計(DART))により観測された.これらの観測機器は沖合に設置され,そこで観測する津波波形は海岸近傍の複雑な海底地形による変形や非線形効果を受けにくく,震源過程の情報を抽出するのに適している.
 本論文では,検潮所に加えて,上記の様々な津波観測機器で得られた津波波形を用いてプレート境界面でのすべり量分布を推定し,海溝近傍で40 mを超える大きなすべりがあったことを明らかにした.一方,震源を含むやや深部のプレート境界においても20 mを超える大きなすべりがあったことを明らかにした.さらに海溝近傍の大きなすべりは,過去に近傍で発生した1896年明治三陸津波地震に似ていることから,三陸地方沿岸での大きな津波高はこの海溝近傍の大きなすべりによると考えた.また,仙台平野のような広範囲にわたる津波浸水域の形成は,やや深部のプレート境界での大きなすべりにより励起されたやや長周期の津波が原因とした.このように沿岸での津波の挙動についても定性的ではあるが一定の解釈を与えたことは評価できる.
 さらに速報として東北地方太平洋沖地震の震源過程を示した本論文は,すでに様々な論文に引用され(引用数は50を超えている),非常に高い評価を受けている.また,考察にて,津波痕跡調査で明らかになっている三陸地方北部での大きな津波高は本論文のすべり量分布では説明できないことを指摘しており,本論文発表後のさらなる詳細な津波波形解析研究につなげている.速報として重要な結果を論文として発表し,明らかになった問題点については,その後,さらに詳細で高度なモデル化を実施し,学会等ですでに発表している点も高く評価できる.
 以上の理由から,本論文は日本地震学会論文賞とする.

○若手学術奨励賞
1. 受賞者 : 浅野公之
  受賞対象研究 : 強震動生成過程の解明と強震動予測の高度化に関する研究
  受賞理由
     受賞者は,観測強震記録を丹念に解析し,プレート境界,内陸地殻内,スラブ内の地震タイプに応じた強震動生成過程の解明と強震動予測への適用性に関する研究に関して,以下の特筆すべき業績を上げてきた.その主たる業績は以下の2点である.
 (1)地震タイプ毎の強震動生成過程のモデル化.広帯域強震波形記録を用いて近年の主要なスラブ内地震を網羅的に分析し,スラブ内地震の強震動生成領域(震源断層内で特に広帯域強震動地震波を放射する領域)等の震源パラメータのスケーリング関係を調べた.スラブ内地震の強震動生成領域の応力降下量が他の地震タイプの経験値に比べ相対的に大きいのみならず,深さ依存する傾向を明らかにした.さらに,プレート境界巨大地震である2011年東北地方太平洋沖地震は,震源から浅い海溝寄りに広がる巨大すべり域とは異なる相対的に深い陸側の領域に4つの強震動生成領域が孤立的に分布することを,周期10–0.1秒の帯域での強震波形モデリングから明らかにした.これらの領域が1930年代に,個別に活動した宮城〜茨城沖のM7級地震活動域に対応したことから,強震動生成領域の分布の予測可能性を示した.以上の結果は震源物理に関わる地震学的な意義に止まらず,合理的に強震動予測を行うための震源パラメータ設定において重要な知見であり,多くの地震動予測事例に本研究成果が活用されている.
 (2)強震波形を用いた震源過程解析の高度化と強震動予測への応用.強震波形による震源過程解析では,従来は単一の一次元速度構造モデルに基づく理論的グリーン関数による解析例がおこなわれていたが,受賞者は観測点毎の一次元速度構造を観測余震波形記録によってモデル化し,2004年新潟県中越地震,2007年能登半島地震へ適用することで,詳細かつ信頼度の高い断層破壊過程を得ることに成功した.最近はこのアプローチが標準となりつつある.また,解析から得られた内陸地殻内地震のアスペリティの応力降下量の統計的特性を分析し,強震動予測に適用可能な経験式を提案した.さらに受賞者は,震源過程推定と強震動予測高度化に必要な伝播経路・サイト特性に関し,地震被害集中域での表層地盤と地震動増幅特性との関係,地盤の非線形増幅特性,地震動予測用の速度構造モデルの検証・改良など,研究対象を強震動地震学の全ての領域に広げている.
 以上の理由から,候補者の優れた業績を認め,その将来性を期待し,日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する..
 
2. 受賞者 : 鈴木岳人
  受賞対象研究 : 数理物理的視野に立った動的地震破壊過程の包括的理解
  受賞理由
     受賞者は,動的地震破壊の数理的研究を通じて,地震現象の包括的理解に向けた新たな視点を導入することに成功した.具体的には,動的地震破壊に見られる複雑な現象を極めてシンプルな概念に帰着させた.その主たる業績は以下の通りである.(1)二つの無次元数の導入による動的地震破壊の新しい解釈.一つ目の無次元数は,非弾性的な空隙率の増加による効果であり,ダイラタンシーに関わる滑り強化と滑り弱化の性質を与える.二つ目は,流体の流入の程度を表す.これらの無次元数と流体圧の初期値と断層にかかる初期応力の組み合わせをパラメータとして運動方程式が解かれた.その結果,通常の浅い地震は初期応力が大きく,滑り強化が少しだけ卓越し,流体の流入が小さいときに相当することが示された.一方,ゆっくり地震は初期応力が小さく,滑り強化が強く,流体の流入が大きいことに相当するときであることが示された.また,断層滑りによる温度上昇が予想より小さいのは,必ずしも滑り弱化を想定する必要はなく,たとえ滑り強化の状況であっても初期応力が小さくて流体の流れの影響が大きければ説明できることが示された.(2)損傷テンソルの導入による動的地震破壊における非弾性過程の寄与の解明.材料科学で提唱された損傷テンソルとクラックの閉口を考慮した修正歪テンソルを用いた歪エネルギー,運動エネルギー,損傷エネルギーの釣り合いの式が解かれた.その結果,破壊速度は損傷の無い古典的なモデルよりわずかに遅いこと,また,それは損傷の成長に伴う非弾性的なエネルギー損失に起因することが示された.さらに剛性率にかかる損傷の総量と方向をパラメータとした場合,卓越する微小クラックの向きとモード,二次的断層の粉砕や分岐発展の様子がパラメータの違いだけで説明された.
 このように受賞者は,卓越した数学解析能力と物理的思考力によって動的破壊現象に関する運動方程式やエネルギー収支を定式化し,複雑な地震破壊現象を比較的単純な枠組みから解釈できる可能性を示した.
 以上の理由から,受賞者の優れた業績を認め,その将来性を期待し,日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する.
 
3. 受賞者 : 前田拓人
  受賞対象研究 : 高広帯域地震波・津波のモニタリングとシミュレーションの融合研究
  受賞理由
     受賞者は,これまでに不均質媒質中の波動伝播の問題に一貫して取り組み,修士論文では周期100秒以上の長周期コーダ波形成の仕組みを理論と観測の側面の両面から明らかにするとともに,博士論文では半無限ランダム不均一媒質モデルを用いて実体波と表面波の変換散乱を定量的に取り扱い,コーダ波形成への表面波の寄与を理論的に解明した.
 さらに,受賞者は博士の学位取得後,研究の幅を地震波と津波のモニタリングの分野に大きく広げ,地震波エンベロープ解析および地震波散乱問題の知見を応用して地震波エネルギーを用いた深部低周波微動の新しいモニタリングと震源決定方法を開発した.この成果に基づいて構築された高精度の微動カタログは,その後の数多くの共同研究の基礎的データとして用いられ,西南日本の沈み込み帯におけるスロー地震の理解に大きく貢献することとなった.また,大分県における群発地震に伴う再現性のある地震波速度の時間的変化の発見や,Hi-net記録を広帯域地震計として用いた表面波の干渉現象の発見など,稠密連続地震観測記録の丹念な解析から地殻活動と地震波動の双方の理解を深める成果を継続的にあげてきた.
 その後,受賞者は波動場解析とモニタリング研究に数値計算研究を融合する試みに取り組み,プレート境界地震の海底観測で期待される広帯域地震動と地殻変動・津波を統一的に取り扱う新しい数値計算手法を提唱した.これは,従来独立に解析されていたこれら3つの現象を融合した解析への道筋を初めて示したものである.さらに,近年完成した「京」コンピュータの性能を大きく引き出すシミュレーションコードを実際に開発して,東北地方太平洋沖地震における広帯域地震動と地殻変動・津波の再現に成功したことは候補者の成果を語る上で重要な成果であると言える.
 このように,受賞者は波動論に基づいた幅広い手法の開発を行い,その実践として地震および津波波動場の解析研究を精力的に行ってきた.特に近年の大量の連続地震観測データから新しい現象を発見・抽出する手法開発には独自性があり,海底地震津波観測網の整備に伴う今後の新しい地震・津波のモニタリング研究において一層の貢献が期待できる.
 以上の理由から,受賞者のこれまでの業績を高く評価し,その将来性を期待して日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する.




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