第2回:強震動と震源Publications

信州大学工学部 泉谷恭男

 地震の震源(ここでは「震源」という言葉をhypocenterではなく、sourceの意味に使用している。)と強震動との間に密接な関係があることは、わざわざ書くまでもない当たり前のことである。ところが、強震動については主に工学の分野で、震源については主に理学の分野で、長い間別々に取り扱われてきた歴史がある。工学の分野では、震源のことは「マグニチュード(M)」というたった一つのパラメターで表現されてきた。即ち、Mという強さだけを持った点震源が強震動の源であった。一方、理学の分野では、強震動が起きると振り切れてしまうような計器で地震観測を行ってきたため、震源のことを調べるには、大地震の際にも振り切れていない遠方での長周期地震記録を用いるのが常であった。そこから得られるものは、強震動とはやや関係の薄い長周期的震源像であった。

 30年ほど前に震源断層極近傍の強震動の長周期成分がHaskellモデル(断層運動を巨視的に理解するために矩形断層を仮定し、その断層の長さ、幅、くいちがい量、くいちがいにかかる時間、破壊伝播速度の5つのパラメターで記述したもの)、で説明できることが示されても、強震動と震源の関係についての研究がそれほど急速に進展しなかったのは、震源のことについて調べ得るだけの十分な質と量が強震記録に備わっていなかったためである。もう一つの理由は、Haskellモデルは長周期的な震源モデルであり、工学的に重要な強震動の短周期成分を十分に説明できなかったことである。

 強震動と震源の間の関係についての研究は、ここ15年程の間に目覚ましく進展した。この原因は、バリアやアスペリティに代表される震源断層の不均質性に関する考え方が広く認められるようになったことと、性能の良い強震計が大量に設置されるようになったためである。大地震が発生する度に、強震記録のインバージョンによって、断層面上でのすべり量の分布等が求められるようになった。1995年の兵庫県南部地震に関しては、強震記録の解析によって、あの破壊的な強震動が如何にして生じたのかについての多くの研究がなされた。そして、断層面上での局所的なすべり量や動的な断層破壊過程が強震動や地震動災害に密接に関係していることが明らかにされた。

 さて、強震動地震学の究極の目的の一つは、研究の成果を防災に役立たせることである。図-1は、強震動と震源との関係を調べることが、どの様に地震防災に役立つかを示している。一つの流れは、震源の全体像を即時的に把握して、リアルタイム防災に役立てることである。広帯域の強震ネットワーク記録がリアルタイムで利用できると、それらの記録の解析から震源メカニズム解を求めることや多重震源性について調べることが出来る。また、震源から放出される強震動の継続時間は震源断層の広がりに関係しているので、強震動継続時間の方位依存性から断層の破壊進行方向と広がりとを求めることが出来る。これらの情報は、被害地域の緊急把握や、海域の地震にあっては津波警報の発令というリアルタイム防災に役立つ。

 もう一つの流れは、将来に発生が予想される大地震に伴う強震動を予測することである。そのためには、想定地震に対する震源過程のシナリオを作成する必要がある。長周期地震学の成果であるω-2モデルや巨視的な断層パラメター間の相似則等は、震源断層の全体像を想定するために役立つ。強震動の生成に直接関係する震源断層の微細構造の想定には、強震動記録の解析により求められた震源断層の微細構造についての研究成果が利用される。

 しかし現状では、震源断層の微細構造に関する普遍的法則を見出すまでには至っていない。例えば、局所的なすべり量と断層の全体的な大きさとの間には、巨視的な断層パラメター間の相似則のような密接な関係が存在するのだろうか? 事前に断層運動の様式を知ることが出来るであろうか? 強震動予測のためには、強震動記録の解析から得られる経験的な知見ばかりでなく、地質学的な震源情報、長周期地震学に基づく震源断層像、断層すべりに関する理論的・実験的な研究成果など、震源に関するあらゆる知識が必要である。

強震動と震源の関わりと地震防災
図-1 強震動と震源の関わりと地震防災

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