第13回 名古屋地域強震観測研究会における地域の強震観測データ活用の試み(Vol.11, No.5, 14-17, 2000/1)Publications

地域の強震観測データ活用の試み

福和伸夫・飛田潤・中野優(名古屋大学)

1.はじめに

 兵庫県南部地震を契機として全国に膨大な数の強震観測網が整備された。中でも各自治体が整備した震度情報ネットは数の上で圧倒しており、今後は地震関連研究への利用や、早期地震被害予測システムによる初動体制確立、建築規準の性能規定化後の耐震設計への利用などが期待される。しかし、現状は、震度情報の早期把握という目的以外には余り利用されていないようである。このところ、強震観測の量的問題が改善される一方で、ハードの質やソフトの問題が目立つようになってきている。すなわち、観測記録の信頼性向上のための努力が必要であり、良好な観測条件の維持管理、データの収集・データベース化や相互利用の促進などの問題を克服することが大事な時期になってきたように思える。
 そこで、地域の強震観測の現況を把握し、強震観測のハード・ソフト両面の改善を促すことを目的に、半公的な観測機関からなる名古屋地域強震観測研究会(名震研)を1998年7月6日に発足した。東海3県を対象に、各観測機関の観測条件の調査や強震観測記録の収集を行い、さらには、観測機関間のデータ流通やデータ公開を試みている。発足後の1年間は、(1)国や官の立場では把握しきらないものを、(2)担当者ベースでボトムアップ的に調査し、(3)データの散逸・消失の回避のためにデータ収集し、(4)複数の観測機関の記録の照合により信頼性を向上させ、(5)観測機関を巡回して研究会を催すことにより観測状況を相互認識する、といった活動を行ってきた。具体的には、これまでに6回の研究会を開催し、各機関の観測状況の把握、データ公開の可能性の確認、波形データの収集、共通フォーマットへのデータ変換、報告書の作成、記録波形・スペクトルのウェブ公開などを実施した。メンバーは、愛知県消防防災対策室、名古屋市防災室、中部電力、東邦ガス、愛知工業大学正木研究室、名古屋大学(事務局)であり、愛知県建築指導課と愛知県建築住宅センターがオブザーバー参加している。
 研究会発足の契機になったのは1998年4月22日養老の地震(仮称・M5.4・北緯35.17度・東経136.56度・深さ4?6km、東南東-西北西方向に圧縮軸をもつ逆断層型、名大理学部発表)である。この地震は東海3県の強震観測網の整備が一段落した後に最初に発生した地震であり、名古屋圏では大量の記録が得られた始めての機会で、各観測網のテスト的役割も果たした。その結果、各県の震度情報ネットには色々なトラブルが発生し、マスコミにも多く取り上げられた。一方、この地震は震源が養老断層付近にあるため、名古屋圏の防災を考える上で重要な地震でもある。地震後の調査で東海3県下に500にも及ぶ観測点があり、地元にいる私たちですらその実態を十分に把握しきっていない状況であった。観測機関によっては波形データ収集の予定が無く、データが消失しかねない状況にあることなどから、波形データを広範に収集することとした。さらに、主要な観測機関の意向調査から、公的な研究会があればデータ提供・公開が容易であるとの感触を得たため、愛知県内で多点観測を実施している機関を中心に名震研を設立することになった。
 

2.名古屋圏の主な強震観測機関

データベース化した東海3県の観測機関
表1 データベース化した東海3県の観測機関
 表1に東海3県下の強震観測状況を示す。愛知・岐阜・三重の3県、名古屋市、気象庁、K-NET、東邦ガス、中部電力、名古屋大学、豊橋科学技術大学、愛知工業大学が主たる観測機関である。以下に各機関の観測状況の概要を記す。
・愛知・岐阜・三重の3県の震度情報ネットワークは、各市町村に1台の配備が原則で、計測震度と最大加速度情報を自動送信する。愛知・三重はダイアルアップにより波形を回収できるが、岐阜県では波形が収録されていない。
・名古屋市は早期地震被害予測用に各区1ヶ所を原則に強震計を設置している。内2ヶ所はボアホール型である。最大値情報をISDN網で自動受信し、波形は地震後ダイアルアップにより自動回収できる。
・東邦ガスの地震計はガス供給ブロック遮断が主目的であり、被害予測がSI値に基づくために水平2成分のSIセンサが用いられている。刻時精度は確保せず、SI値や最大値情報のみを無線送信する。波形情報は保守時に作業員が回収する。
・中部電力の電力技術研究所は21地点461成分の地震観測を行っており、うち、15地点をオンライン観測している。何れも電力施設を対象にしており、建屋?地盤系の高密度観測が行われている。
・名古屋大学では、学内の建物・地盤に約40台の地震計を設置し、学内LANを利用して波形情報を即時送信している。切盛による改変丘陵地や、中低層建物に観測点を展開した点に特徴がある。
・豊橋技術科学大学は、大小2つの三角アレイを有し、ダイアルアップによる波形回収を行っている。
・愛知工業大学は大学内の建物・地盤観測システムと濃尾平野を横断する測線を有する。愛工大敷地は基盤岩がほぼ露頭しており、名古屋圏の基盤地震動を観測できる。波形回収は現地回収による。
東海3県の機関別の強震観測点
図1 東海3県の機関別の強震観測点
 図1に東海3県下の機関別の強震観測点位置を示す。東海3県下には約500の強震観測点が存在する。3県をほぼ均等に分布している観測としては次のものがある。一つは全体の約半数を占める3県の震度情報ネットである。この他に3県全体を覆うものとしては、K-Netと気象庁の観測ネットがあり、合わせて約100の観測点を有する。全体として2.1万km2の面積を約350の観測点がカバーしており、60km2に1地点程度の密度になる。人口の集中する濃尾平野地域には、約100台の東邦ガスの観測ネットが配されているため3県下全体の観測密度の4倍程度となる。さらに、名古屋市内には、市の16観測点などを含め約60が存在するので5?6km2に1地点と高密度になる。また、名古屋市周辺にはボアホールでの観測も10地点程度存在する。ちなみに、名大東山キャンパスの観測密度は3県下の1000倍になるが、たいていの地震での最大加速度値は、場所によって2倍程度の差がある。したがって、現状の観測密度は表層や微地形による震動性状の差異を評価できるレベルにはない。
 なお、自治体の震度情報ネットは、設置条件が良好でなかったり、不明な場合が多いが、これは短期間に膨大な数の設置をし、地震観測に慣れない防災担当者が対応したことなどのためである。計測目的からすると市町村の揺れを代表する自由地盤地表が望ましいが、管理上から市町村役場に設置される場合が多く、筆者が確認したものも理想状態とは言い難い設置状態にあった。例えば、震度情報ネットの名古屋市観測点は市役所地下階のドライエリアにセンサーが設置されているため観測値もかなり小さい。維持管理は防災担当者に委ねられているが、何れの県も担当者は若干名で、兵庫県南部地震後に急増した日常防災業務に忙殺され、計測震度計の維持管理にまで手が回らないのが現状のようである。また、運用初期の段階では初歩的なミスが残った状態にあり、その一端が、1998年養老の地震で露呈することとなった。信頼性を高めるにはデータ公開を推進し、研究者による検定を進める必要がある。この意味で、文部省が計画している「大都市圏強震動ネットワーク」プロジェクトの成果が期待される。
 

3.データ収集と公開

収集データのウェブ公開例
図2 収集データのウェブ公開例


 名震研では、各観測機関の観測状況を把握するために観測担当者にアンケート用紙を送付し、観測条件、公開度、地盤調査の有無などの調査を行った。つぎに、データ収集を行い、収集記録を統一フォーマットに変換した上で、加速度波形から、速度・変位波形、応答スペクトル、計測震度、SI値を統一的な方法で算定した。これらの情報に加え、案内図、近傍地点のボーリングデータ、微動のH/Vスペクトルをデータベース化した。さらに、各機関の公開度に応じて情報を隠蔽して、図2のようにウェブ公開することにした(図2: http://www.sharaku.nuac.nagoya-u.ac.jp)。ただし、波形のディジタル値の公開については時期尚早との判断で、各機関に直接依頼頂く形に留めた。
 

4.まとめ

 地域の強震観測の現況を把握しデータ公開を推進するために名古屋地域強震観測研究会(名震研)を発足させ、1998年養老の地震を対象に東海3県の波形記録を収集・データベース化し、WWWによるデータ公開を試みた。今後は、当地の地盤震動性状の解明に加え、名古屋圏の設計用入力地震動の策定、堆積平野の深部地盤構造の解明、リアルタイム地震被害予測の信頼性・精度向上、建築規準の性能能規定化後の地震荷重評価などへの利用が考えられる。
問い合わせ先:
 〒464-8603 名古屋市千種区不老町 名古屋大学建築学教室 福和伸夫・飛田潤・中野優
e-mail:
 fukuwa@sharaku.nuac.nagoya-u.ac.jp
 tobita@sharaku.nuac.nagoya-u.ac.jp
 nakano@sharaku.nuac.nagoya-u.ac.jp
 

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