日本地震学会シンポジウム

「強震動予測による地震災害の軽減をめざして」報告


              強震動委員会 山中浩明(東工大・総合理工)

 日本地震学会強震動委員会の主催で標記のシンポジウムが8月5日と6日に
東京大学地震研究所で開催された。このシンポジウムは強震動に関する研究の
成果を地震災害軽減に生かすための社会的合意の形成にむけて強震動地震学の
研究者は何をするべきかについて議論を行い、今後の強震動研究のあり方につ
いて方向づけすることを目的としたもので、2日間で38編の発表が行われ、
のべ187名の出席者があった。
 まず、強震動委員会の入倉委員長から上記の趣旨説明が行われた。つぎに、
強震動委員会の4つの調査班のうち、日本の強震動観測の現状のレビューにつ
いての調査班、強震動研究の成果の普及に関する調査班の活動がそれぞれ久田、
山中両委員から報告された。発表は5つのセッションに分けられ、各セッショ
ンでは2編の招待講演、数編の一般講演および討論があり、2日目の最後に総
合討論が行われた。
 セッション1は「活断層調査と強震動予測」に関したセッションで、招待講
演では、佃(地質調査所)が活断層調査から将来予測される断層パラメータの
推定について、横田(阪神コンサルタンツ)が活断層調査や強震動予測のため
の反射法地震探査ついて発表した。一般講演では、活断層資料に基づいた強震
動や地震危険度の評価についての発表が行われた。活断層ごとのスケーリング
則の違いや固有地震モデルの成立性などについて、活構造研究者と地震学研究
者との認識の違いも含めて議論があった。また、活断層のトレンチ調査は万能
ではなく、わからない点も明確に言うことも大切ではないかとのコメントもあっ
た。
 セッション2では「震源研究と強震動予測」についての発表が行われた。招
待講演では、武尾(東大地震研)が地震波の逆解析から得られる断層モデルに
ついてのレビューを行い、宮武(東大地震研)は震源の物理と強震動予測につ
いて最近の研究成果も含めて説明した。一般講演では、震源の不均質性と強震
動の関係や短周期地震波の励起などについて発表があった。討論では、強震動
予測には断層破壊の不均質性の情報が重要であり、それが分からない状況では
予測結果のばらつきも大きく、決定論的評価だけでなく、経験的評価も強震動
予測には必要ではないかとの意見があった。さらに、活断層研究によって、将
来期待される地震の断層についてはある程度理解できたとしても、現状では震
源の不均質性を予測することは難しく、強震動データに基づく震源に関する研
究の重要性も指摘された。また、どこまで短周期成分を予測するべきかについ
ての質問があり、0.1秒程度まで必要である、0.5秒から2秒までが重要である、
等々のコメントがあった。対象物やどの程度までの安全性を確保するか等にも
関係することであり、今後の議論が必要であろう。
 初日の最後のセッション3は「地下構造の推定と強震動予測」がテーマであ
った。招待講演において、堀家(大阪工大)は強震動予測のための地下構造探査
の現状についてまとめ、国や地方自治体の事業として地下構造探査や強震動予
測を実施するべきであると述べた。また、佐藤俊明(清水建設)は関東平野の堆積
層での3次元波動伝播モデリングについて発表し、中小地震記録を用いた地盤
モデルのキャリブレーション(校正)が強震動予測には重要であると指摘した。
一般講演では、関東平野での地盤探査、地盤の不規則構造を考慮した強震動シ
ミュレーションなどについて発表があった。その後の議論では、個々の地盤探
査のデータの総合的な見直しや統合の必要性、関東や大阪ではある程度地下構
造が分かってきたが、全国的には地下構造が未知な平野が多く残されているこ
と、地盤探査手法の研究も未だ発展途上であり、研究を進める必要があること、
などの意見があった。地下構造に関する調査研究が進むほど、強震動予測に有
益な情報が確実に増えることは明確であり、国、自治体、研究者、耐震実務者
などのいろいろなレベルで種々のスケールの地下構造探査を実施し、それらの
データを公開し、蓄積・整備していくことが重要であろう。
 第2日目はセッション4「地震動の構造物に対する破壊力の評価」というテー
マで発表が行われた。招待講演では、壁谷沢(東大地震研)は性能規定型の設
計思想の概要を示し、瞬間エネルギーによる地震動強さの評価の重要性につい
て述べた。また、川島(東工大)は道路橋の耐震設計における最近の設計用ス
ペクトルの考え方について説明した。一般講演では、1985年メキシコ・ミチョ
アカン地震や兵庫県南部地震の際の構造物被害と強震動強さの関係、設計用入
力地震動や地震荷重の評価の課題や問題点について発表が行われた。討論では、
構造物被害が定量的に説明できているわけではなく、被害と強震動の関係につ
いての研究が必要であるとの指摘があった。現状における構造物のモデル化や
解析方法によって、構造物の崩壊まで必ずしも精度よく評価できるわけではな
く、その方面での研究の進展にも期待されるところがある。一方では、構造物
の設計と被害原因の解明は分けて議論するべきであるとの意見もあった。
 最後のセッション5「強震動予測の現状とその問題点」では、招待講演とし
て、翠川(東工大)が建築構造の性能設計の考え方とそれに伴う強震動予測の
問題点について述べ、Somerville(Woodward-Clyde)は米国において性能設計
のために強震動評価がどのように行われているかについて紹介した。一般講演
では、強震動予測のための地下構造探査の推進、リアルタイム地震防災、断層
近傍の強震動特性、予測結果のばらつきの考え方など今後の強震動予測で重要
となるであろう課題が指摘された。
 総合討論では、まず、入倉委員長が耐震設計や地震防災などにおいて、社会
との接点としての強震動予測はどのようにあるべきかについて意見を述べた。
さらに、澤田(京大防災研)が最近の知見を活かした大阪府での強震動評価の
例を紹介し、討論に入った。地震の長期予測の結果を地震防災につなげるため
には、強震動予測が必要であるが、その結果を実際に地震防災や耐震設計に生
かすためには、予測結果に対する社会の合意が必要であり、そのためにも信頼
性の高い強震動予測が不可欠であるとの意見が複数の方からあった。さらに、
信頼性を上げるためには、地下構造調査と震源の研究およびそれらの適切なモ
デル化についての検討を今後進めるべきであることが再度指摘された。こうし
た研究の推進には、高品質な強震動データが必要であり、強震観測のさらなる
充実も忘れてはならない。強震動予測が社会との直接的な接点であるとの認識
は多くの方にあった。しかし、実際には強震動予測に必要とされる精度や周期
範囲などは建築、土木、地域防災など対象によって異なることもあり、しかも、
耐震安全性に対する考え方も唯一であるわけではないので、強震動の研究者は
予測された結果を使う側との間で幅の広い議論も大切であるとの指摘がなされ
た。同時に、現時点で予測の難しい問題の解決をめざして、科学としての強震
動地震学の研究をさらに推進していく必要があるということで、多くの方の合
意が得られた。最後に、強震動委員会の武村幹事がシンポジウムをまとめを行
い、2日間で討論されたことを受けて、強震動委員会では、強震動予測の進め
方を継続して広範に議論していくことを確認して、シンポジウムが閉会された。
 このシンポジウムの資料集(pp.138)の残部があるので、学会事務室に連絡
すれば、実費(1冊1500円プラス冊数に応じた郵送料)で入手できる。 
 末筆になりますが、今回のシンポジウムの開催に際しては東京大学地震研究
所の方々にご協力頂きました。この場をお借りして感謝いたします。

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