地震学会ニュースレター連載:強震観測の最新情報(7)

FREESIA networkにおける地震観測

科学技術庁防災科学技術研究所 福山英一

はじめに
FREESIA networkは、1994年よりはじまった防災科 学技術研究所の特別研究「地震素過程と地球内部構造 に関する総合的研究」によって、現在の観測形態が確 立された。1997年から、観測点の整備はいわゆる広帯 域基盤観測に引き継がれ、現在に至っている。厳密に 言えば、1997年3月までに完成した観測点はFREESIAの 観測点であり、それ以後は基盤の観測点と言うことに なるが、観測システムも同一であり、データ処理も統 合しておこなわれている現状を踏まえ、また、数年後 には、両者は名実ともに統合することになっているた め、この両者を合わせてFREESIA networkとここでは 呼びたい。そのほうが、ユーザ側に混乱は生じないは ずである。
FREESIA networkの特徴は、「実時間性」と「波形」 と言う2つのキイワードで表せる。つまり、地震波形 に含まれるなるべく多くの情報を使って、現在何が起 こっているかをなるべく早く知ることを主目標に挙げ ている。そのためには、各観測点での地震波形を24時 間垂れ流しの状態でデータセンタに送る必要がある。 更に、その波形データは実時間ベースで処理され、結 果は素早く不特定多数の人に伝えられる。また、観測 された地震波形データも、実時間ベースで配布され、 複数のグループ/解析手法による解析が可能であり、 第三者は、より客観的な結果を手にすることが出来る。 また、地震波形を使う以上、広帯域・高ダイナミック レンジの地震計を配置する必要がある。1台の地震計 でカバーできる範囲は限られているため、FREESIA networkでは、2種類の地震計をもちいて、広帯域・高 ダイナミックレンジ化を計っている。詳しくは、福山 ・他(1996)を参照されたい。

データ収集方法
観測はすべて横坑内において行われており、地震計 台座上にSTS-1型広帯域地震計3成分とVSE311R速度型 強震計3成分の計6成分が設置されている。データは Q680データロガーにより5〜10秒の時間おくれでデー タセンターに常時転送される。また、バックアップと して約1日半の間データはデータロガーに保存され、 通信障害等で実時間転送データが欠測した場合、手動 で欠測データを復旧することが出来る。データはTCP/ IPプロトコルを用いたソケット通信によりデータ転送 を行っている。データサーバ側では、デーモンプログ ラムにより、通信状況を監視するとともに、データ転 送に障害が発生した場合は監視デーモンプログラムが、 自動的に障害の発生したプロセスを再起動し、障害復 旧を試み、復旧しない場合は、電子メールにより管理 者に障害を通知する。この仕組みにより、実時間デー タの障害率は全観測時間の0.1%以下であり、故障など による波形の欠測状況は全観測時間の0.01%以下であ る。観測点によっては、約2年以上もの間、障害無く 連続して稼働しているところもある。

データの種類とそのアクセス方法
広帯域地震計(STS-1)のデータは、24bitのA/D変換 器で量子化され、digital filterで処理された後、以 下のデータを保存している。80Hz連続データ(HHZ,HHN, HHE)、20Hz連続データ(BHZ,BHN,BHE)、1Hz連続データ (LHZ,LHN,LHE)、0.1Hz連続データ(VHZ,VHN,VHE)、0.0 1Hz連続データ(UHZ,UHN,UHE).STS-1地震計は約0.005m /sを越える入力に対して非線形的な応答をし、0.01m/ sを越える入力に対してクリップするため、これらの 入力を越える地震波形を扱う際は、併設されている速 度型強震計(VSE311R)を用いる必要がある。VSE311Rは STS-1地震計と似た特性(地動速度に対して平坦な応答) をするが、0.4m/sあたりでクリップする特性となって いる。今年度の観測点より、VSE311Rの後継機である VSE355Rを用いている。VSE355Rは、低周波ノイズ特性 が改善され、しかも、最大速度入力が2m/sと、従来機 の5倍となっている。速度型強震計のデータも、広帯 域地震計と同じA/D変換器で量子化され、digital filterで処理されている。利用可能な成分は80Hz連続 データ(HLZ,HLN,HLE)、20Hzトリガーデータ(BLZ,BLN, BLE)、1Hzトリガーデータ(LLZ,LLN,LLE)である。 これらのデータはすべてFREESIAのWorld Wide Web のページ(http://argent.geo.bosai.go.jp/freesia/ index-j.html)より取得可能である。現在、ディスク スペースの制限により、提供できるデータは、過去2 年分強程度であるが、ディスクの増強により、過去3 年分のデータは自由にアクセスできる体制を整える予 定である。データ取得のためのプログラムは、2年以 上前に書いたものであるが、利用者の使い勝手がよい ものとはお世辞にもいえない。近じか、より簡便にデ ータを取得できるよう、データ取得プログラムの更新 を行う予定である。また、CDROMによるoff-lineデー タ提供の体制も同時に整える予定である。

最後に
この広帯域地震データを用いて、防災科学技術研究 所では、気象庁により、電子メールで配布される緊急 震源情報をもとに、全自動でモーメントテンソルを決 め、即時にWorld Wide Webおよび電子メールにて、そ の結果を公開している(福山・他、1998)。また、結果 の信頼性を向上させるために、手動による再決定を1 日程度の遅れをもって行っている。Webによる結果及 び電子メールによる結果の購読は、上記に紹介した FREESIAのページからたどれるようになっているので、 御利用いただければ幸いである。
なお、上記のデータを利用するに当たっての利用条 件は該当するWeb pageに記されているので、最低限の マナーとして、遵守していただければ幸いである。


図1:1999年3月末現在の観測点分布
   (現在建設中の観測点も含む)

参考文献:
福山英一・石田瑞穂・堀貞喜・関口渉次・綿田辰吾
  Freesia Projectによる広帯域地震観測, 防災科学技術研究所研究報告,
 57, 23-31, 1996.
福山英一・石田瑞穂・Douglas S. Dreger・川井啓廉
 オンライン広帯域地震データを用いた完全自動メカニズム決定、
 地震 第2輯, 51, 149-156, 1998.

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