地震学会ニュースレター連載:強震観測の最新情報(8)

地質調査所での強震観測

伊藤久男(地質調査所地震地質部)

1. はじめに
 地質調査所では兵庫県南部地震のあと、近畿地域を中心に地下水等の観測井と応力測定 および歪みの連続観測を目的の観測井を整備しました.平成8年度には近畿地域に加え、 長野県王滝地域、岐阜県跡津川断層沿いにも観測点を増やしました.地下水等の観測井は 堆積層中の地下水位観測を基本とし、観測点によっては坑底付近の基盤岩中に歪計・加速 度計・速度計を設置しています.また歪みの連続観測を目的の観測井では岩盤中に歪計・ 加速度計・速度計を設置することを基本としています.
 観測点は合計28点になります.これらの観測点の内半数程度の17観測点に3成分歪計 が、13観測点に坑井内加速度計が設置されています.

2. 観測点・観測機器と集録システム
 典型的な観測点である池田観測点(大阪府池田市緑丘、工業技術院大阪工業技術研究所 構内)の構成を図1に示します.
 池田観測点では坑井内に3成分歪計・3成分速度計・3成分加速度計からなる観測装置を 設置してあります.また地上にも強震計を設置してあります.池田観測井の地質構造は地 表から深度664 mまでは未固結の洪積層である大阪層群、664 m以深は丹波層(中・古生 層)の基盤岩です.従って坑井内強震計は基盤岩である丹波層中に、地表強震計は大阪層 群上にあることになります.
 センサーの仕様は以下の通りです.
坑井内加速度計:
 日本航空電子工業(株)JA-5VC
 測定範囲:±2,000 gal
 形式:サーボ式加速度計

地上強震計:
 アカシ製MDII
 測定範囲:±2,000 gal

 坑井内・地上強震計の記録はトリガーモードでA/D変換され、つくば市の地質調査所へ 送られます.トリガは地中速度計により判定され、地表はそのトリガをもらって記録され ます.REFTEK社の集録装置でサンプリング周波数250 Hz、サンプリング精度24ビット でA/D変換されます.伝送の都合から現状では、1日1回現地から地質調査所へ送られま す.残念ながら現状ではリアルタイムの伝送にはなっていません.地質調査所で伝送され た地震波形データはCD-ROMに焼かれ、保存されています.
3. 観測例
 図2に1999年2月12日3時23分に京都市南部に発生した地震(深さ約20 km、マグ ニチュード4.4)の記録例を示します.図中BS, BV, BA, SAはそれぞれ坑井内歪計、坑井 内速度計、坑井内加速度計、地表強震計の記録を示します.


4. データの提供
 各観測点からの地下水位等の時系列データはインターネット等を利用して一般に公開さ れる予定ですが、強震計データについては一般に公開する体制にはなっていません.ただ し研究目的でのデータ利用は歓迎しますので、データの利用を希望される方は下記までご 連絡下さい.

5. おわりに
 13観測点に坑井内加速度計が設置されいますが、坑井内・地表ともに強震計が設置され ているのは池田観測点のみです.しかし、あらたに地表強震計を設置することは基本的に は可能と思いますので、地表への強震計設置に興味のある方も、下記までご連絡下さい.

参考文献
佃栄吉・高橋誠・佐藤努・松本則夫・伊藤久男、地質調査所における地震予知地下水観測 網ー近畿地域の地下水観測井の新設ー、地質ニュース、505, 11-15, 1996.

連絡先:
 伊藤久男
 〒305-8567 茨城県つくば市東1-1-3
 工業技術院地質調査所地震地質部
 Earthquake Research Department, Geological Survey of Japan
 Tel 0298-54-3757 Fax 0298-55-1298
 E-mail g0193@gsj.go.jp


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