2018年度Awards

1.受賞対象論文

Seismic imaging of slab metamorphism and genesis of intermediate-depth intraslab earthquakes

著者:Akira Hasegawa(長谷川 昭)and Junichi Nakajima(中島 淳一)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science (2017) 4:12 DOI: 10.1186/s40645-017-0126-9

受賞理由

 スラブ内地震はどのようなメカニズムで起こるのか。地震学の大きな謎の1つである。地下深部では脆性破壊強度もしくは摩擦強度がきわめて大きくなるからである。有力な説として、脱水脆性化、剪断応力による部分熔融、オリビン-スピネル相転移などが提唱されているが、これらは高温高圧実験や理論に基づく仮説であり、まだ結論は出ていない。

 本論文は、スラブ内変成作用と稍深発地震の成因に関連した地震波速度構造と地震活動に関する研究成果をレビューし、スラブ内地震のうち稍深発地震については、脱水脆性化、もしくは脱水脆性化と熱的不安定化の複合作用が、その発生原因であることを強い説得力をもって示した。近年の地震観測網の高密度化によりスラブの内部構造が推定可能になったからである。

 稍深発地震は約40-180kmの深さで二重地震面を形成する。二つの地震発生面の間隔はスラブ年齢の対数に比例し、これらの位置と深さはスラブ変成作用と脱水反応境界と密接な関係がある。冷たいスラブでは、地殻の温度―圧力経路が相境界深度で水を多く放出し体積変化が起こることで、活発な地震活動が想定される。冷たいスラブの代表である東日本下の太平洋スラブで、予想通り80-90kmの深さに帯状の地震活動の集中域が観測されている。また、相境界であれば地震波速度が上がることも予想されるが、その通りに低速度の地殻がその深さで高速度に変わる。一方で、地震波トモグラフィーから、東日本と南米チリのスラブマントルでは、二重面下面に沿ってP波速度が低下することが明らかになった。これは蛇紋岩化マントルでは説明できず、水の存在が強く示唆される。岩石から放出された水がマントルの強度を下げ地震を発生させるとする意味で脱水脆性化説を強く支持する。もう1つの可能性は、水が強度を下げ破壊を開始させ、破壊進展には熱的剪断不安定が役割を果たすとする複合メカニズムである。いずれにしても、稍深発地震の発生に水が重要な役割を果たしていることを示す確かな証拠である。

 以上のことから、本論文が、これまでに得られた観測的証拠を整理し積み上げることによって、稍深発地震の発生メカニズムについての説得力を高め、地震学の長年の謎の解明に向けて大きく進展させたと評価できる。

 以上の理由から、本論文を2018年度日本地震学会論文賞とする。

2.受賞対象論文

明応七年六月十一日(1498年6月30日)の日向灘大地震は存在しなかった ―『九州軍記』の被害記述の検討―

著者:原田 智也,西山 昭仁,佐竹 健治,古村 孝志
掲載誌:地震第2輯第70巻(2017)89-107頁 DOI:10.4294/zisin.2016-13

受賞理由

 明応七年六月十一日(1498年6月30日)、日向灘大地震は本当に存在するのか? 地震調査研究推進本部地震調査委員会の日向灘および南西諸島海溝周辺の地震活動の長期評価にもこの地震の歴史記録があると書かれている。しかし、この地震の根拠となった『九州軍記』は地震後100年以上経って書かれたものである。

 本論文は、1498年明応日向灘地震の実在可能性を確かめることを目的として、『九州軍記』中の九州大地震とそれによる被害が記載されている「九州大地震付大旱飢饉事」の章の内容や成立過程を詳細に検討したものである。『九州軍記』は正慶2年(1332年)から天正15年(1587年)の約250年間の九州内での動乱を描いた軍記物語で、浄念による『九州鑑』焼失後、玄厚が浄念から聞いた『九州鑑』の内容を再びまとめ、了圓によって修正補筆されたものである。著者らは、『九州軍記』に書かれたこの地震の被害に関する記述には具体的な被害地域名や建造物や人的被害の程度などが一切ないこと、また被害記述の大部分が『平家物語』の異本の一つである『源平盛衰記』の元暦2年の地震と思われる記述と酷似していることを指摘している。さらにこれほどの地震であれば京都で有感になりそうだが、小さな地震についてまで書いている京都の日記にもこの地震が起きたとされる時刻に揺れの記載はない。また、著者らはこの章が前後の軍記物語の章を繋げるとともに、後ろに続く物語を盛り上げるために書かれた創作物と考えた。戦乱と度重なる災害による人々の苦しみを記述するために書かれたもので、この軍記物語の執筆・改訂中に発生した文禄豊後地震や文禄伏見地震の影響を受けている可能性がある。これらのことから、『九州軍記』の信憑性は著しく低く、明応日向灘地震が実在した可能性はほぼないと結論づけた重要な論文である。本論文では、『九州軍記』だけでなく、この地震についての記載があるその他の史料についても詳細にかつ緻密に検討を行っている点も評価できる。

 明応日向灘地震のように史料が少ない時代の地震は、信憑性の低い史料までもが使われ、記録密度に地域差などもあって事実と異なる地震像が作られる可能性があり、それが将来発生する巨大地震の長期評価にも大きく影響する怖れがある。特に古い時代の歴史地震の信憑性を評価するには膨大で緻密な史料調査が必要である。大変な労力を要する地味な研究であるが、地震学の進展のためには重要であり、今後もこのような地道な研究も必要である。

 以上の理由から、本論文を2018年度日本地震学会論文賞とする。

3.受賞対象論文

3-D dynamic rupture simulations of the 2016 Kumamoto, Japan, earthquake

著者:Yumi Urata(浦田 優美),Keisuke Yoshida(吉田 圭佑),Eiichi Fukuyama(福山 英一)and Hisahiko Kubo(久保 久彦)
掲載誌:Earth, Planets and Space (2017) 69:150 DOI: 10.1186/s40623-017-0733-0

受賞理由

 大地震の発生を規定する要因である地震前応力場や断層面における摩擦パラメータ等を実際の観測データから明らかにすることは、大地震の発生前に現実的な地震シナリオを想定する観点からもきわめて重要である。

 本論文は、2016年熊本地震(Mw7.1)において、背景応力場と前震による応力変化を考慮することで、本震の破壊が実現しうる力学的条件を明らかにした。まず、余震分布の精密再決定からM6クラスの前震の断層面および2枚の断層面から構成される本震の断層面を決定した上で、前震にともなう本震断面上における静的応力変化を見積もった。その結果、前震によるクーロン応力変化(ΔCFS)は震源付近で正となり、前震が本震の破壊開始を促進させうることが明らかになった。一方で、震源よりも浅部の広い範囲でΔCFSは負となり、地震前応力(せん断応力)が小さければ、破壊は浅部には伝搬せず、M7クラスの本震を再現できないことが明らかになった。次に本震を発生させうる力学条件を解明することを目的とし、地震前応力場と前震による応力変化の和を初期応力分布とした三次元動的破壊伝播シミュレーションを、地震前応力の大きさと断層面上における摩擦構成パラメータを変化させた約150ケースで実施した。その結果、本震を再現しうる地震前応力の範囲および摩擦構成則を推定することに成功した。

 著者らが、前震による応力変化と本震破壊による応力解放に必要な力のバランスに着目するという考えを提唱し、観測データと大規模シミュレーションの組み合わせによって地震前応力場の推定を実現させたことは、重要な成果である。さらに、これらの成果は観測データから設定する応力場と動的破壊伝播シミュレーションを複合させることで、巨大地震の現実的な発生シナリオを合理的に提示しうることを示唆するものであり、自然現象を予測する能力を持った科学としての地震学が目指すべき方向性を提示する研究と考えられ、その重要性は高い。

 以上の理由から、本論文を2018年度日本地震学会論文賞とする。

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