2023年度Awards

受賞者:佐竹 健治

授賞対象業績名

地球物理学・歴史地震学・地質学的手法に基づく巨大地震・津波の発生履歴の解明

受賞理由

受賞者は、地球物理学に基づく卓越した地震・津波研究手法を開発し、それを歴史地震・古地震も対象とする多様な手法に発展させて世界中の巨大地震・巨大津波研究を牽引し、地震学の発展に多大な貢献をしてきた。

地球物理学的手法を用いた研究では、観測された津波波形と数値シミュレーションによる計算波形の比較から津波波源での断層すべり量分布を推定するインバージョン手法を開発し、津波を伴った巨大地震の解析を行った。この手法はその後、津波データと陸域の測地学的データとを組み合わせた解析、波源での断層すべりの時空間分布の推定、海底水平変位を考慮した波形計算などへの発展を遂げた。これらの手法を用いることで、2011年東北地方太平洋沖地震などの日本周辺の地震のみならず、アラスカ・アリューシャン海溝沿い、中米、南米、インドネシアなど、世界中の沈み込み帯で発生した巨大地震の規模や断層変位分布を明らかにした。その過程で、津波地震は海溝軸付近のプレート境界浅部でのすべりが大きいという重要な発見をした。また、津波インバージョン手法は現在の津波研究では一般的に用いられるようになったほか、NOAAのSIFT systemや気象庁のtFISHなどのリアルタイム津波予測手法の基礎ともなるなど、関連分野への波及効果も大きい。

歴史地震学においては、日本の古文書の記録と津波の数値シミュレーションに基づいて、北米のカスケード沈み込み帯における最新の巨大地震が1700年1月に発生し、規模はM9クラスであったことを明らかにした。これは北米における地震防災に大きな影響を与えたという点で、国際的にも大きな貢献である。

古地震学的方法は、地質学的手法で得られた津波堆積物の分布を説明できるような津波遡上高を、数値シミュレーションから明らかにするものである。津波堆積物の調査と津波シミュレーションにより、千島海溝では17世紀に発生した巨大地震、日本海溝では9世紀に発生した貞観地震の規模と波源位置を、東北地方太平洋沖地震発生前に明らかにした。

受賞者は、2012年から2014年まではアジア大洋州地球科学会(AOGS)会長、2019年から2023年には国際地震学・地球内部物理学連盟(IASPEI)会長を務めるなど、国際的な貢献も大きい。また、日本地震学会が主催・共催する近年の学術集会においても、最新の研究成果を精力的に発表している。

以上のことから、2023年度日本地震学会賞を授賞する。

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