授賞対象功績名:「地震・津波観測監視システム」の開発と地震学分野への貢献

受賞団体

川口 勝義、高橋 成実、金田 義行 及びDONET開発チーム*
(DONET開発チーム* 荒木 英一郎、横引 貴史、崔 鎭圭、松本 浩幸、西田 周平、木村 俊則、大木 健、町田 祐弥、馬場 俊孝、末木 健太朗、神谷 眞一郎、鈴木 健介、有吉 慶介、中野 優、中村 武史)

受賞理由

 受賞団体は、「地震・津波観測監視システム」の開発を通じて地震学分野への貢献を行ってきた。その主な業績は以下の通りである。

 海洋研究開発機構が開発した「地震・津波観測監視システム」(以下、DONET)は、海域における大規模かつ高精度の稠密観測を実現した世界で初めての海底観測ネットワークである。紀伊半島沖熊野灘の水深1,900~4,400mの海底に設置された「DONET1」は2011年に運用が開始された。それに続いて紀伊水道沖の水深1,100~3,600mの海底に設置された「DONET2」の整備は2016年に完了した。DONETは現在までに南海トラフ周辺に51観測点が展開されている。各観測点には強震計、広帯域地震計、水晶水圧計、微差圧計、ハイドロフォン、精密温度計が設置され、地殻変動のようなゆっくりした動きから大きな地震動まで様々な海底の動きを観測できるように機器が構成されている。DONETは整備完了後、2016年4月に防災科学技術研究所に移管され、リアルタイム観測データは、現在、気象庁等によって緊急地震速報と津波警報に活用されている。

 DONETの卓越した能力は、これまでの国内外の海底観測ネットワークで成し得なかった、「冗長性」、「拡張性」、「置換性」を実現したことである。「冗長性」では、高信頼性能を持つ通信用海底ケーブル技術を用いて両端陸揚げ(2箇所に陸上局を設置)の基幹ケーブルシステムとしたことで、基幹ケーブルシステムに障害が発生した場合でも、可能な限り観測データが途切れないようになっている。「拡張性」では、拡張用分岐装置(ノード)に複数のセンサーを接続する機能を集約し、整備時に実現された稠密観測に加えて、様々な海底観測の需要に対応して将来の観測点追加が可能となっている。「置換性」では、水中着脱コネクタによる観測点接続により、無人探査機(ROV)での容易な観測装置交換を可能にした。これにより、更新のサイクルが顕著なセンサー機器の陳腐化へも対応できるようになっている。

 上記3つの特性を備えたDONET実現のために、給電ケーブルやデータ伝送技術、時刻同期システム等、多岐にわたる海底リアルタイム観測用ケーブル技術が開発された。また、観測点とノード間を接続する全長10km超の細径ケーブルをROVによって展張する手法の確立、地震計の環境ノイズを軽減するため地震計海底埋設手法の確立等、高度の海中作業を駆使した観測点の構築手法が確立された。その結果、これまでにない高精度リアルタイムデータの取得が可能となった。これらの技術要素を結集して開発したDONETは、世界的にみても最先端かつ最高度の海底観測ネットワークであると認められる。これらの技術的成果は、本学会にとどまらず他学会でも多数発表され、いずれも高い評価を受けている。

 DONET運用直後から、その高精度の観測技術を利用した地震学への顕著な科学的成果も出てきている。DONETは、その「拡張性」機能を使って、2013年と2016年に長期孔内観測システムの2観測所との接続に成功した。また、DONETは、2016年4月1日に三重県南東沖で発生した地震の震源近傍の現場観測による震源精度の向上と地震発生メカニズムの解明に貢献した。シミュレーション技術とDONETデータとの同化と長期モニタリングにより、地震発生予測手法の高度化が見込まれ、震源要素等の即時推定のみならず地震発生の長期評価への貢献が期待できる。

 観測データは、地方自治体とライフライン事業者へも配信され、早期津波対策や避難誘導、安全対策等で活用されている。DONETの地震計と水圧計を用いた即時津波予測システムが構築され、和歌山県、三重県、尾鷲市、中部電力に実装されている。和歌山県は気象業務許可を受けて現業に使用している。これは事前に計算した津波波形とリアルタイムで逐次入力されるDONETデータを比較して、即時的に沿岸の津波到達時刻と最大津波高、浸水エリアを可視化、逐次更新するものである。昨年度のDONET2の完成を受けて、断層モデルと観測点の動的選択により、この予測手法が高度化され精度が向上した。現在、新たな実装が進んでいる。

 以上の理由から、技術開発と研究基盤構築の双方の面において、地震学に重要な貢献をしたものと認め、日本地震学会技術開発賞を授賞する。

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