第7回:地盤の非線形特性Publications

東京大学地震研究所 飯田 昌弘

一般に地震学では、地盤線形時の地震波を用いて研究が行われますが、強震動を理解する際には、地盤の非線形特性がついてまわります。ここでは、地盤の非線形特性がどのような現象なのか、おおまかに説明します。

多くの材料と同様、一定の歪レベル(条件によるが一般に10の「-4」乗くらい)を越えると、地盤も非線形挙動(剛性が低下し、減衰が増加する現象)をします。現実には、ある地震動レベル(中地震)以上の時に、一部の軟弱地盤で地盤の非線形挙動が起こります。一定の歪レベル以上なので、地震動の振幅が大きい時に、地表近くの地盤(数十mより浅いところで、より深いところより軟弱です)でのみ起こります。地表近くの地盤は、不均質で多様(地盤の材質もさまざまですし、水を含むかどうかも重要な問題です)なので、非線形挙動をする地盤とそうでない地盤があり、表層地盤や局地的な地盤のスケールに対応して、数秒以下の高周波(短周期)地震動で問題になります。1つの目安として、地盤のS波速度で200m/秒以下だと、非線形挙動をする可能性が高いと言えます。広い意味では、砂地盤の液状化や地滑りもその一種と言えます。

地盤の非線形挙動により、地表における強震記録の卓越周期は、線形時の地盤特性の周期より長周期側へずれます。振幅は、大きくなることも、逆に小さくなることもあります。

地盤の(非線形特性も含めた)諸問題は、いくつかの分野で扱われています。まず、現位置測定(野外測定)や土質室内力学試験・実験があります。基本的なものに、締固め試験、CBR(支持力)試験、透水試験、圧密試験、せん断試験があります。これらは、土の力学定数を直接求めるために行なわれるもので、土質力学では、重要なウエイトを占めます。土の材料特性は多様だからです。また、土の非線形挙動に関連して、土の粘着力と摩擦力も重要です。地盤の降伏強度(弾性限界)は、この2つのパラメータで決まると考えられているからです。

2つめに、地盤の非線形特性を仮定した、地盤応答の数値計算があります。地盤の非線形性(応力ー歪関係)を表現するためには、弾塑性モデル(他に粘弾性モデル等もあります)を使用することが多く、代表的なものに、Hardin-Drnevichモデル、Ramberg-Osgoodモデル、バイリニアモデルがあります。図-1に、一例として バイリニアモデルを示します。数値計算は、最近では、1次元的な解析から、FEM(有限要素法)や粒状体モデルへと移りつつあります。

3つめに、強震観測による、地盤の非線形挙動の検証があります。地盤が非線形化した場合の地震動は、弾性波動論によって計算される地震動とは、異なる波形をしています。地盤の非線形挙動が強震記録に見られる例として、1964年新潟地震の新潟、1968年十勝沖地震の青森、1978年宮城県沖地震の塩釜、1983年日本海中部地震の秋田(八郎潟)、1995年兵庫県南部地震の神戸(鷹取)、などが挙げられます。例として、図-2に1978年宮城県沖地震の塩釜、図-3に1968年十勝沖地震の青森、における強震記録を示します。塩釜の記録は、図-1のような地盤の弾塑性挙動を受けたものと考えられるのに対し、青森の記録は、地盤が液状化したものと思われます。しかしながら、地表における1点のみの観測であると、地盤の非線形挙動によるものと、深い地盤構造を反映した表面波と、大地震の場合に震源で発生する長い周期の波の区別は、なかなかつきにくいのです。

地震動がS波なら、ボアホール強震記録の解析は、地盤の非線形特性の識別に有効です。

最後に、まだよくわからないことが多い研究対象であることを、言い添えておきます。

<謝辞> 強震動地震学基礎講座担当の山中浩明氏には、たいへんお世話になりました。澤田純男氏からは、有益なコメントをいただきました。

図-1 応力-歪曲線からバイリニア型へのモデル化の例 (ThiersとSeedによる)
図-1 応力-歪曲線からバイリニア型へのモデル化の例(ThiersとSeedによる)

図-2 1978年宮城県沖地震の塩釜記録(NS成分)の加速度波形とフーリエスペクトル
図-2 1978年宮城県沖地震の塩釜記録(NS成分)の加速度波形とフーリエスペクトル

図-3 1968年十勝沖地震の青森記録(EW成分)の加速度波形とフーリエスペクトル
図-3 1968年十勝沖地震の青森記録(EW成分)の加速度波形とフーリエスペクトル

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