第21回 カリフォルニア強震観測プログラムと最近の発展【日本語訳】(Vol.13, No.2, 50-54, 2001/7)Publications

カリフォルニア強震観測プログラムと最近の発展

Anthony F. Shakal (カリフォルニア州保全局、鉱山・地質部)

 南カリフォルニアで大きな災害を起こした1971年サンフェルナンド地震は、カリフォルニア州にとって非常に重要な出来事でした。この地震により例えば、強震動はそれまで考えられていたよりもずっと強くなりうること、建物の強震時の揺れ方があまり良く理解されていなかったこと、などが明らかになりました。その結果、カリフォルニア州のCDMG(California Division of Mines and Geology)にCSMIP(カリフォルニア強震観測プログラム; California Strong Motion Instrumentation Program)が設立されました。CSMIPの目的は地盤および建物の強震動を観測することで、建物の耐震設計基準を改善していくための基礎となる定量的なデータを提供することにあります。

 カリフォルニアで設計・施工される建物は、州政府の役人(建築主事に相当)の審査により耐震基準に適合しているかが認証されます。審査には課金されますが、その際、強震観測のための課金も加わります*1。CSMIPが設立された際、強震観測のための課金制度が州により法制化され、これがプログラム遂行のための基金となっています。さらに州法では、地震工学の技術者と研究者からなる諮問委員会を設置しており、基金による建物や地盤、他の構造物(橋、ダムなど)の強震観測するための計画が遂行されています。

 1972年以降、CSMIPにより900を超える強震観測点が整備され、そのうち約75%は地表面や地盤応答を観測するために設置されています。一方、1989年ロマプリエータ地震を契機に、観測されたデータを社会に役立たせるための努力も試みられています。プログラム基金の一部は、技術者や研究者の研究をサポートする基金としても使われています。また毎年行われるセミナーにより、得られた成果や最新の知見などが報告されています(例えば、Huang, 2000)。これらのセミナーは、各種構造物の設計者が観測から得られた重要な成果を理解し、速やかに構造設計に反映されることを目的としています。

 1989年ロマプリエータ地震と1994年ノースリッジ地震では、劇的な橋の崩壊が注目されました。そのため橋の設計者によって橋の地震応答に関する定量的な強震観測データの必要性が認識され、橋を対象とした強震観測が強化されました。例えば、有名な金門橋では1994年に75以上の強震センサーが設置されました。加えてカリフォルニア州交通局(Calif. Dept. of Transportation)の資金援助により、州内の50以上の橋に強震計が設置されてました。渡橋料を徴収する主要な橋には、今後、計100以上の強震センサーが設置される予定です。

 一方、CSMIPの本来の目的は強震動を記録し、耐震基準や耐震設計の改善に寄与することにありましたが、この5年間でデータは他の価値があることが明らかになってきました。すなわち通信技術と並列計算技術の発達により、地震の直後に強震観測点からサクラメントにある本部のコンピュータを呼び出し、数分以内に観測データを転送することが可能になりました。送信されたデータは引き続き簡易な自動処理が行われ、速やかに使用可能になります(Shakal et al., 1996)。従って、かつては地震の後、数日から数週間使えなかった強震記録データは、今では瞬時に利用可能になり、地震直後の緊急対応のために役立てることができるようになりました。強震データを緊急対応に役立てるという計画は当初には無かったのですが、このために州政府や地域の自治体にとってCSMIPがより価値のあるものとして認識されるようになってきました。

他の諸機関との協力

TriNet: 1994年ノースリッジ地震の後、Caltech(カリフォルニア工科大学)における強震観測事業(CUBE)の実績により、TriNetと呼ばれるCaltech、CSMIP、 USGSによる共同プロジェクトが発足しました(Mori, 1999)。このプロジェクトの主な目的は、地震直後にShakeMapと呼ばれる揺れの強さを表示する地図を作成することです。ShakeMapは、比較的小さな地震でも作成され、現在、Webページで見ることができます(www.trinet.org)。

CISN: TriNetにより大きな進歩があったものの、TriNetは南カルフォルニアのノースリッジ地震で影響を受けた地域に限定されています。対象地域を拡張するため、TriNetはUC Berkeley (カリフォルニア州立大バークレー校)と USGS Menlo Park(米国地質調査所メンロパーク支部)を協力機関に加え、全州を対象とした共同機関を結成しました。この共同機関は、CISN(California Integrated Seismic Network)として知られ、TriNetに組み込まれ、いずれ置き換わる予定ですが、最近になって関連機関による最終的な決定に至りました。CISNの基金は州及び連邦政府から提供される予定です。

CISNの重要な要素に、CSMIPとUSGSの強震観測プログラムとの協力によるEngineering Data Centerの設立があります。CISNの観測網による工学的に重要な記録は、技術者向けに処理され、Engineering Data Centerを通して配布される予定です。同時に同じ記録はCISNを構成する様々な地震データセンターを経由して、地震学者用のフォーマットでも提供される予定です(dual use strategy)。Engineering Data Centerの初期の取り組みは、Shakal and Scrivner (2000)により詳述されていますが、この試みはTriNetプロジェクトが終了する2001年度末前には完了する予定です。

構造物と地表・地中観測

 CSMIPはこれまで250以上の構造物(170の建物、60の橋、20のダムなど)に強震計を設置して来ました。どの構造物の強震観測も、設置前に検討してきた設置目的に基づき包括的な計画のもとに遂行されています。過去8年間の全ての機器にはデジタル式強震計を使用していますが、それ以前の構造物にはフィルム書きによるアナログ式強震計が設置されていました。アナログ強震計からデジタル強震計への置き換えは、今後十数年かけて行っていく予定です。新しい全ての強震計は2gの加速度センサーを用いています。但し、ノースリッジ地震の際、観測された構造物の応答が2gを超えたため、4gまで記録能力のあるセンサーが通常は多くの建物で使用されています。

 一方、表層地盤の増幅特性を調べるために、CSMIPは1989年にボアホールによる強震観測プロジェクトを開始しました。その際、精度を確保すると同時に、修理の後も繰り返し設置可能になる新しい機器の固定法が開発されました。交通局の協力のもと、現在、11のボアホールアレー観測が行われており、今後さらに8つの新しいアレー観測を実施する予定です。これまで観測されたデータはまだ小さな振幅のものばかりですが、遠方の大きな地震の記録は、近地の小さな地震の記録とは大きく異なることを明らかになっています。遠方の地震の場合、恐らくは表面波伝播の効果により、期待されるような表層地盤による地震動の増幅効果は観測されていません。逆に表面波が発達しない近地地震の記録では、表層地盤により2倍あるいはそれ以上の増幅効果が確認されています。この新しいアレー観測プロジェクトにより、さらに多くの知見が今後得られるでしょう。

 最後にCSMIPにより記録され、処理された強震データは以下のサイトからダウンロード可能です。

ftp://ftp.consrv.ca.gov/pub/dmg/csmip/

要約および近年の展開から学んだ教訓


(日本語訳:工学院大学 久田嘉章)

*1(補遺:著者からの情報提供より)

カリフォルニア州法による強震観測事業のための課金制度は複雑ではあるが、要約すると以下のような仕組みである。まず課金は建物のタイプによって異なる。新築の場合、例えば3階までの居住用建築(category 1)はone feeを払う。one feeとは建設コスト$100,000あたり$7 か、または建設コストの0.007%である。4階以上の建築ではカテゴリーによって異なるが、おおよそcategory 1の2倍程度のfeeを払う。また既存建築の増改築も州政府の認可が必要であり、その際、小額であるが課金される(最低額で$0.50 から)。一方、学校、病院、橋、ダムなどには課金されず、これらの施設の強震観測は別な基金で行われている。

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