トモグラフィー手法による地球内部ダイナミクスの解明
受賞者は、1990年代の初めに博士課程の研究の一環として地震波トモグラフィー手法を開発し、これを活用した日本列島直下のP波・S波速度の3次元構造を明らかにする研究で成果を上げたことを皮切りに、世界各地の地殻やマントルの3次元地下構造を明らかにし、さらに大地震の震源域における微細な速度構造の空間変動をとらえてそれを解釈することにより、その発生機構の解明に貢献した。同様に、沈み込むプレート周辺の速度構造からマントル・ダイナミクスの解明に重要な役割を果たすとともに、地震・火山噴火現象の発生要因の解明にも大きな成果を挙げた。これらの複数の地震学・地球ダイナミクス・火山学・テクトニクスに関連する分野において30年間にわたって世界最先端の研究をリードしてきていることは特筆に値する。
受賞者は地震波速度不連続面が3次元形状を有する3次元不均質構造内での効率的な波線追跡手法の開発等により、地震波走時トモグラフィー法を高度化し、空間的に高解像度の構造把握を可能とした。そのプログラムは無償で公開され、有効なトモグラフィー手法として世界で広く利用されている。さらにその手法を拡張することで、地震波減衰構造推定や異方性構造推定も可能な手法を開発し、その応用の場を広げてきており、地球内部の動的プロセスの推定に活用してきている。
受賞者は同定した3次元構造により様々な新たな知見を明らかにしている。例えば1995年兵庫県南部地震の震源域でのトモグラフィーでは、断層に沿って低速度・高ポアソン比の領域が明瞭にイメージされ、地震発生に水が重要な役割を果たしている証拠を提示している。東アジア地域のマントルトモグラフィーからは、横たわる太平洋スラブによって大規模なビッグ・マントルウエッジ(BMW)が生成されるとするモデルを提唱し、プレート内部地震と火山の起源の関係を説明している。同モデルはプレート境界から遠く離れた火山活動を説明する普遍的なモデルの可能性がある。受賞者の得た成果は氏が意図した分野での引用や応用に留まらず、強震動地震学の分野や岩石学の分野でも広く引用され、その与えた影響は幅広い分野に及ぶものであると言える。
受賞者の研究成果は、推薦書の業績リストによれば、359篇の著書・査読付き論文に結実しており、またその引用件数総数は2万件を越えていて、業績は数だけではないということは言うまでもないこととしても、その影響は世界的に大であると認められる。また受賞者は近年の地震学会秋季大会等においても精力的に最新の成果を公表している。
以上のことから、2022年度日本地震学会賞を授賞する。