2019年度Awards

受賞者:尾形 良彦

授賞対象業績名

地震活動のETASモデルと統計地震学理論の体系化

受賞理由

 受賞者は、1970年代後半から体系的研究が始まった新たな統計地震学の創始者のひとりである。統計数理研究所での46年間の在籍中、受賞者は点過程モデルの構築とそのパラメータ推定や、地震活動の確率予測・異常検出・シミュレーションなどの地震発生モデリングに、理論と応用の両面から大きく貢献した。そのなかでも、最も特筆すべき成果はETAS(Epidemic-Type Aftershock Sequence)モデルの提案である。このモデルは、大森・宇津公式と点過程の自己励起性(Hawkes点過程)を結びつけることで、余震活動に代表される地震のクラスター性を表現したものである。この考え方の核心は、ある場所に事象(点)が発生する切迫度(発生確率の微分量)を過去の事象の発生履歴や他の情報に基づいて予測するという視点から定義された「条件付き強度関数」にある。この概念を統計地震学に取り込むことにより、地震活動のデータなどに基づく様々な地震の確率予測に新しい扉を開いた。

 例えば、 ETASモデルを地震活動データにあてはめて日本列島の常時地震活動の静穏化・活発化が客観的に判断できることを示し、地震発生の長期確率予測の可能性を示した。また、地震系列や余震系列にETASモデルをあてはめた標準的な地震活動モデルを「ものさし」として使うと大地震の中期予測や大きな余震の短期予測の手掛かりになりうることを示した。ETASモデルはこれらの他にも、異常現象と地震発生に関する因果関係の確からしさ、短期予測に重要な前震の確率予測への適用可能性など、地震発生に関する多様な確率予測研究への応用可能性を示唆しており、多くの研究者が受賞者の研究に触発されて様々な研究を活発に行っている。

 現在、このモデルは地震活動の標準的モデルとされ、地震本部の余震活動の評価手法に取り入れられているほか、確率的地震発生予測に関する国際共同研究プロジェクト(CSEP)でも用いられている。また、USGSの次世代予測モデルにも採用されるなど、世界的にも大きな影響を与えている。さらに、地震発生の物理メカニズムを理解するための地震活動に関する様々なモデルを構築・検証する多くの試みにおいても、ETASモデルは解析の基礎モデルとして用いられている。これらに加え、地震学におけるETASモデルの成功が地球科学分野以外でも着目され、山火事・犯罪・生態学における植物の侵入・ソーシャルネットワークの相互作用・ソフトウェアの更新など、多くの研究分野にまで適用されている。

 地震の発生予測に関しては、決定論的な地震予知から確率論的な地震予測へと大きな方向転換がはかられているが、受賞者の提唱したETASモデルとそれに基づく統計地震学理論の体系化は、この大きな流れを世界的にもリードする極めて重要な役割を担っていると言える。受賞者は現在でも地震学会を始めとする学術集会などで盛んに研究発表を行っているほか、地震予知連絡会の委員を務め、社会的側面からも地震予測と災害軽減に携わっている。以上のことから、2019年度日本地震学会賞を授賞する。

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