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2026年度日本地震学会賞、論文賞、若手学術奨励賞、技術開発賞受賞者の決定について(2026年8月4日掲載)News & Topics

公益社団法人日本地震学会理事会

日本地震学会賞、論文賞、若手学術奨励賞および技術開発賞の受賞者選考結果について報告します。
2026年5月31日に応募を締切ったところ、日本地震学会賞2名、論文賞4篇、若手学術奨励賞5名、技術開発賞1件の推薦がありました。理事会において各賞の選考委員会を組織し、厳正なる審査の結果、2026年7月30日の2026年度第3回日本地震学会理事会において、下記のとおり日本地震学会賞1名、論文賞1篇、若手学術奨励賞3名、技術開発賞1件を決定しました。

各賞の授賞式は2026年度秋季大会の場において行う予定です。

日本地震学会賞

受賞者

深尾 良夫

授賞対象業績名

地球内部ダイナミクスに関する地震学的研究

授賞理由

深尾良夫氏は地震学的手法を用いた地球内部に関する研究を牽引し、特に全マントルトモグラフィーに基づくマントルダイナミクスの解明、地球の常時自由振動現象の発見と解明など、地球科学の幅広い分野での先駆的な研究を行った。それらの成果は国内外から広く認められている。

以下に、その功績を具体的に述べる。深尾氏は、独自に開発したトモグラフィー手法を用いて全世界の地震波初動到逹時刻データを地球内部に逆投影することで、全マントルの3次元P波速度構造を推定し、海溝に沈み込んだ海洋プレートが上部・下部マントル境界付近に滞留するスタグナントスラブの概念を初めて提唱した。さらに深尾氏は、この概念を進展させるため、地球物理観測・超高圧地球科学・計算機科学からなる新たな研究領域を組織した。これらの成果によって、プレートの温度・圧力による鉱物の安定性や、スラブの滞留・崩落に関する力学的メカニズムの理解が飛躍的に進展するとともに、地球内部への水輸送過程など固体地球ダイナミクスに関する重要な多くの知見がもたらされた。

また深尾氏は、木星や太陽表面の振動・波動現象の励起機構が地球大気や固体地球でも同様に存在し得ることを理論的に示唆することで、広帯域地震計の20年以上に及ぶ記録の解析から、地球全体が微弱ながらも長周期帯域で連続的に振動している「常時自由振動」の発見につなげた。その振動は大気と共鳴し易い周波数で顕著に増幅するとともに季節変動を示し、海洋波浪が励起する海洋重力波とも相互作用していることが、海底を含むグローバルな地震観測網から明らかとなった。これらの成果は、地圏・水圏・大気圏をひとつの振動システムとして理解する新たな学問分野を開拓し、地球観測データに新しい付加価値を創出するものとなった。

さらに深尾氏は早くから海域での観測基盤の整備を重要視し、1980年代から太平洋島嶼国における広帯域地震観測網を展開した。1990年代には地震・地磁気・微気圧・地殻変動を統合した「海半球観測研究計画」を立ち上げ、観測データのオンライン公開を実現し、世界の研究者が広く利用する、現在の「太平洋アレイ観測計画」として発展させた。

学術コミュニティへの深尾氏の貢献も顕著であり、1991~1995年に日本地震学会会長、1993~1997年に東京大学地震研究所所長を歴任し、地震学に基づいた地震防災科学の発展に大きく貢献した。また、(国研)海洋研究開発機構において地球内部ダイナミクス領域を創設し、2012年まで領域長として学際的研究を牽引した。深尾氏が携わった組織では、幅広い分野の研究が融合した自由闊達な学風が築かれ、多くの後進研究者を育成・輩出することでも国内外における地震学の発展に貢献した。

深尾氏は、これらの国際的に卓越した研究業績により、1995年の恩賜賞・日本学士院賞をはじめ、1997年に米国地球物理学連合フェロー、2014年には日本地球惑星科学連合フェローおよび日本地震学会名誉会員に選出されている。さらに2018年には、米国地球物理学会連合よりInge Lehmann Medalが授与されるなど、国内外から極めて高く評価されている。

以上述べたように、深尾良夫氏は国際的な地震学の発展ならびに日本地震学会の運営に多大な貢献をされており、2026年度日本地震学会賞を授賞する。

論文賞

授賞対象論文:Nonplanar 3D fault geometry controls the spatiotemporal distributions of slip and uplift: evidence from the Mw 7.5 2024 Noto Peninsula, Japan, Earthquake

著者名:Ryosuke Ando, Yo Fukushima, Keisuke Yoshida, Kazutoshi Imanishi
掲載誌名等:Earth, Planets and Space 77, 53 (2025)
DOI:10.1186/s40623-025-02187-9

授賞理由

令和6年能登半島地震では、既知の海底活断層の破壊によって能登半島北岸が隆起したことが合成開口レーダや海底面の調査によって明らかになった。しかし、場所による隆起量の顕著な違いや、地震波の解析から明らかになっていた破壊過程中盤での断層すべりの急加速など、地震災害の程度にも関係する複雑な現象が生じた原因は未解明であった。本論文は、令和6年能登半島地震の震源断層を対象に、本震前に得られていた非平面の三次元的な断層形状と高精度な応力場を考慮した動的破壊シミュレーションを行い、これらの要因を解明したものである。

本論文では、動的破壊シミュレーションによって断層破壊の開始・成長・停止を再現することに成功し、断層が大きく屈曲している場所で大きなすべりと断層破壊の加速が生じたこと、すなわち、断層の三次元形状が震源過程に大きく影響することを明らかにした。また、観測された地震動波形の特徴も、シミュレーション結果によって良好に再現された。さらに、地震時地殻変動もシミュレーションによって面的に再現され、得られた隆起量の空間変化の特徴が観測結果とよく一致していることが確認された。これまでにも大地震を対象として断層形状や応力場を考慮した動的破壊シミュレーションは行われてきたが、地震時地殻変動と地震動波形の両方の観測結果を良好に再現した例はごくわずかであった。

本論文で示された成果は、高精度な本震の観測体系に加えて、通常の地震活動や応力場推定、詳細な活断層トレースデータの蓄積、そして筆頭著者がこれまでに開発してきた非平面な断層形状に対応可能な動的破壊シミュレーションコードの開発と計算の高速化に基づくものであり、動的破壊シミュレーションを観測事実と対比可能な定量的な手法へと発展させた革新的な研究成果である。また、不均一な断層すべり分布や強震動の特徴は、従来、アスペリティの分布や摩擦特性の空間変化など、断層面の不均質性によって説明されることが一般的であった。本研究による断層の幾何学的要因が震源過程を大きく左右するという知見は、震源過程の理解に新たな視点を提示するものである。

本論文には、非平面を考慮しない場合の断層破壊過程や、断層の傾斜角がわずか数度異なるだけで破壊パターンが大きく変化することなど、同様の研究を目指す研究者にとって示唆に富む内容も併せて報告されている。また、断層の三次元形状や高精度な応力場は、地震発生前に一定程度把握することが可能な情報である。したがって、これらの情報を取り入れた動的破壊シミュレーションにより、当該断層で発生する大地震の破壊様式や地殻変動、強震動の特徴を事前に評価できる可能性がある。この点は、防災・減災への応用につながる重要な事柄であり、社会的波及効果も大きい。さらに、本研究の成果によって、地形学や地質学など隣接分野において断層研究を進めている研究者との議論の活性化を促すことも期待され、学術的・社会的意義の両面で卓越した論文と評価される。

以上の理由により、本論文を2026年度日本地震学会論文賞授賞論文とする。

若手学術奨励賞

受賞者:小野寺 圭祐

授賞対象研究

多彩な研究アプローチで拓く惑星地震学

授賞理由

小野寺圭祐氏は、月・火星・小惑星を対象とした惑星地震学において、観測データ解析、数値シミュレーション、実験、さらには試料計測までを自在に組み合わせる独創的な研究を展開し、比較惑星学・地震学双方の発展に顕著な貢献を果たしてきた若手研究者である。

小野寺氏の代表的成果の一つは、アポロ短周期地震計データの包括的な再解析である。半世紀以上未解析のまま残されていた短周期データに独自の解析手法を適用し、22,000件を超える未発見イベントを発見するとともに、浅発月震の数を大幅に増やし、月の地震活動度や地域性に関する従来の理解を大きく変えた。限られた観測網とノイズが卓越するデータから地震シグナルを抽出する能力は、小野寺氏の観測・解析技術の高さを示している。

また、火星では InSightが観測した火震の長周期表面波コーダを解析し、火星内部の散乱特性・内部減衰特性を初めて定量的に評価することに成功した。さらに、大気渦と地盤応答の同時解析を通じて、火星の大気現象と地下構造を統合的に理解する新しい地震研究を推進している。これらは、地震波伝播理論と観測データ解析を高度に融合させた成果であり、地球で培われた地震学を他惑星へ展開した先駆的研究として高く評価される。

さらに小野寺氏は、解析研究にとどまらず、小惑星リュウグウ帰還試料の弾性波速度を世界に先駆けて測定し、その形成・進化過程に新たな制約を与える成果を挙げている。また、Apollo 17重力計データを擬似地震計として活用する新たな解析法を提案するなど、既存の観測資源から最大限の科学成果を引き出す独創性にも優れている。

小野寺氏の研究の特筆すべき点は、既存の解析法に依存することなく、観測・理論・数値計算・実験を柔軟に組み合わせ、自ら必要な手法を構築して未知の問題へ挑戦する姿勢にある。その成果は月・火星・小惑星という個別の天体の理解にとどまらず、地震波散乱、減衰、地下構造推定、惑星内部進化など、地震学・地球惑星科学全体へ新たな視点を提供している。

現在も Dragonfly計画をはじめとする国際惑星探査計画において重要な役割を担い、日仏ダブルディグリープログラムを通じて培われた国際共同研究ネットワークを生かしながら、比較惑星地震学の発展を牽引している。今後も地震学の枠組みを大きく拡張し、新たな学術分野を切り拓くことが大いに期待される研究者である。

以上の理由により、小野寺圭祐氏の優れた研究業績と高い独創性を評価し、今後の地震学へのさらなる貢献を期待して、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:髙野 智也

授賞対象研究

連続地震波形記録解析に基づく地球表層現象と固体地球の力学的結合に関する研究

授賞理由

髙野智也氏は、連続地震波形記録の解析を通して、火山や地殻流体のみならず、潮汐や海洋、雪氷圏などの、断層破壊を起源としない地球表層現象と固体地球との力学的相互作用の研究を強力に推し進めてきた。その研究は、地震波干渉法に基づく地殻構造の状態把握に関する推定と、近年の全球的に伝播する長周期震動現象の発見ならびにその発生機構の解明に分類される。

地震波干渉法に基づく研究では、潮汐や火山現象に対する地殻の地震波速度変化の検出に注目し、その応答と感度から地球内部の状態を推定する研究を世界に先駆けて進めてきた。膨大な連続波形記録を解析するだけではなく、非線形弾性理論に基づく速度変化の探索や、状態空間モデルに基づく潮汐応答感度推定手法の導入、地震波速度変化のより精緻な推定法の提案など、対象とする物理量に応じた解析手法を開発することの重要性を意識しながら、新しい地球内部構造の視点を提案してきたことは特筆に値する。これらの研究を通じて、地震波速度時間変化を単なる観測量ではなく地殻の状態を反映する指標として解釈する新たなモニタリングの可能性を提示してきた。

また、全球の地震観測網記録のコヒーレンス解析に基づき、断層破壊によらない未知の長周期震動現象やその季節変動の発見を報告している。発見された震動の起源の検討から、海底火山のハーモニック微動、火山地域外における流体充填クラックの振動現象、および氷河域の海洋-雪氷圏-固体地球の力学的結合に起因する微動など、多様な成果へと発展している。とりわけ、海底火山のハーモニック微動は海域の火山モニタリングにつながる可能性を示すものであり、断層破壊以外に起因する地球表層現象の監視に地震観測記録が活用する具体例を示しながら、新しい研究領域を切り拓いていると言える。

加えて、当該分野で世界の最先端を走るグルノーブル・アルプ大学で共同研究を行うなど、国際的な研究ネットワークの中で精力的に研究領域を広げている。このような基礎研究を強力に押し進める一方、防災科学技術研究所にて基盤的火山観測網の設置運営にも携わるなど、地震学分野の将来を観測から解析まで幅広く支える極めて貴重な人材といえる。

以上の理由により、髙野智也氏のこれまでの優れた業績と高い研究能力を高く評価するとともに、広範な地震学分野を支える研究者としての将来と地震学分野への貢献に大いに期待を込めて、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:馬場 慧

授賞対象研究

多様な地震観測データに基づく沈み込み帯におけるスロー地震の活動特性の解明

授賞理由

馬場慧氏は、海陸の広帯域地震観測網、機動的海底地震観測、および海底光ファイバーを用いた分布型音響センシング(DAS)観測を組み合わせ、沈み込み帯におけるスロー地震の検出・定量化と、その発生場の理解を大きく進展させてきた若手研究者である。

馬場氏はまず、三次元速度構造モデルに基づく合成理論波形をテンプレートとしたmatched-filter手法により、北海道・東北沖、すなわち日本海溝・千島海溝南部沿いの超低周波地震活動を長期かつ網羅的に検出した。これにより、2003年十勝沖地震の余効すべりと十勝沖の超低周波地震活動の時空間的対応、および2011年東北地方太平洋沖地震後に大すべり域外で活動が活発化し、大すべり域内またはその近傍で活動が低調化したことを明らかにした。さらに、日本周辺の沈み込み帯を比較し、浅部スロー地震活動の空間不均質性がプレート間固着の強弱や低速度異常と対応することを示し、スロー地震をプレート境界のすべり挙動・摩擦特性を把握する指標として位置づけた。

また、同手法をコスタリカ沈み込み帯にも展開し、ニコヤ半島沖の海溝軸近傍で浅部超低周波地震を検出・位置決定するとともに、それに伴う低周波微動信号を確認した。検出された浅部スロー地震活動はスロースリップの大すべり域と対応し、通常の大地震域とは空間的に棲み分けること、また規格化エネルギーが南海トラフ浅部スロー地震と同程度であることを示した。日向灘では、陸上・海底観測を組み合わせ、テクトニック微動のエネルギー、超低周波地震のモーメント、および震源移動速度が沈み込む九州・パラオ海嶺周辺で系統的に変化することを明らかにし、構造不均質と震源物理を結びつけてスロー地震活動を解釈した。

さらに、2024年能登半島地震後には、室戸岬沖のDONET2と分布型音響センシング(DAS)を併用し、震源から約600 km離れた領域で、本震後約3-12時間に発生した浅部微動活動を捉えた。大地震後に一部のDONET広帯域地震計が不安定となる中でDASが安定して観測を継続できることを示した点は、海域における微弱な浅部スロー地震活動の高密度・長期モニタリングに新たな可能性を開くものである。

観測、解析、物理解釈を一貫して進める馬場慧氏の研究能力は極めて高く、今後の観測地震学およびスロー地震研究を牽引することが期待される。

以上の理由により、馬場慧氏のこれまでの優れた業績と高い研究能力を高く評価し、その将来性と地震学への貢献に期待を込めて、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

技術開発賞

授賞対象功績名:南海トラフ巨大地震への備えとしての南海トラフ海底地震津波観測網の開発及び整備

受賞者(氏名)または団体名

武田 哲也,青井 真,功刀 卓,三好 崇之,篠原 雅尚,植平 賢司,望月 将志

授賞理由

過去に繰り返し発生してきた南海トラフ巨大地震は、前回の発生から約80年が経過し、その切迫性が極めて高まっている。しかしながら、高知県沖から日向灘にかけての海域はリアルタイム観測の空白域であり、その解消が急務であった。この課題に対し、受賞者らは、(1)従来の水晶振動式センサに比べ、低消費電力、小型化、高い品質均一性と安定性を実現しつつ、高感度を維持したMEMS技術を用いたシリコン振動式水圧計の新規開発・導入(Shinohara et al., 2026)。(2)将来の観測ニーズや技術革新に柔軟に対応できる「ハイブリッド方式」構造(インライン方式;S-net等、プラグイン方式;DONET等を融合)の採用(Aoi et al., 2023)。(3)専用機器開発コストを削減し、運用・保守性を向上させるため汎用機器を活用可能とする通信方式の導入(功刀, 2025)。(4)観測機器のみならず、沖合・沿岸システムの独立構成、ケーブル両端陸揚げといった多重的な冗長構成(Aoi et al., 2023)、を取り入れ安定的かつ継続的な観測運用を可能とする極めて信頼性の高い観測網として「南海トラフ海底地震津波観測網」を整備した。その観測性能は、令和6年日向灘の地震や令和7年カムチャツカ半島付近の地震等の実観測を通じて実証されている(久保田ほか, 2025など)。得られた観測データは気象庁の緊急地震速報や津波情報に迅速に提供されるだけでなく、山陽新幹線の早期地震検知警報システムといった民間での実用化も開始され、巨大地震の発生機構解明に向けた学術研究の推進と防災・減災対策の強化を両立するための不可欠な基盤となりうる。加えて、開発した技術によって得られる観測・成果を広く利活用するため安定的な運用を行っている点も評価に値する。

以上のように、「南海トラフ巨大地震への備えとしての南海トラフ海底地震津波観測網の開発及び整備」は、我が国の地震・津波防災を新たな段階へと引き上げる極めて顕著な業績である。特に上述(1)~(3)の功績を大きく評価し、受賞者らの優れた業績と地震学の発展への高い貢献を認め、日本地震学会技術開発賞を授賞する。

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