第7回 FREESIA networkにおける地震観測(Vol.10, No.5, 15-16, 1999/1)Publications

科学技術庁防災科学技術研究所 福山 英一

はじめに

FREESIA networkは、1994年よりはじまった防災科学技術研究所の特別研究「地震素過程と地球内部構造に関する総合的研究」によって、現在の観測形態が確立された。1997年から、観測点の整備はいわゆる広帯域基盤観測に引き継がれ、現在に至っている。厳密に言えば、1997年3月までに完成した観測点はFREESIAの観測点であり、それ以後は基盤の観測点と言うことになるが、観測システムも同一であり、データ処理も統合しておこなわれている現状を踏まえ、また、数年後には、両者は名実ともに統合することになっているため、この両者を合わせてFREESIA networkとここでは呼びたい。そのほうが、ユーザ側に混乱は生じないはずである。
FREESIA networkの特徴は、「実時間性」と「波形」と言う2つのキイワードで表せる。つまり、地震波形に含まれるなるべく多くの情報を使って、現在何が起こっているかをなるべく早く知ることを主目標に挙げている。そのためには、各観測点での地震波形を24時間垂れ流しの状態でデータセンタに送る必要がある。更に、その波形データは実時間ベースで処理され、結果は素早く不特定多数の人に伝えられる。また、観測された地震波形データも、実時間ベースで配布され、複数のグループ/解析手法による解析が可能であり、第三者は、より客観的な結果を手にすることが出来る。また、地震波形を使う以上、広帯域・高ダイナミックレンジの地震計を配置する必要がある。1台の地震計でカバーできる範囲は限られているため、FREESIA networkでは、2種類の地震計をもちいて、広帯域・高ダイナミックレンジ化を計っている。詳しくは、福山・他(1996)を参照されたい。

データ収集方法

観測はすべて横坑内において行われており、地震計台座上にSTS-1型広帯域地震計3成分とVSE311R速度型強震計3成分の計6成分が設置されている。データは Q680データロガーにより5~10秒の時間おくれでデータセンターに常時転送される。また、バックアップとして約1日半の間データはデータロガーに保存され、通信障害等で実時間転送データが欠測した場合、手動で欠測データを復旧することが出来る。データはTCP/IPプロトコルを用いたソケット通信によりデータ転送を行っている。データサーバ側では、デーモンプログラムにより、通信状況を監視するとともに、データ転送に障害が発生した場合は監視デーモンプログラムが、自動的に障害の発生したプロセスを再起動し、障害復旧を試み、復旧しない場合は、電子メールにより管理者に障害を通知する。この仕組みにより、実時間データの障害率は全観測時間の0.1%以下であり、故障などによる波形の欠測状況は全観測時間の0.01%以下である。観測点によっては、約2年以上もの間、障害無く連続して稼働しているところもある。

データの種類とそのアクセス方法

広帯域地震計(STS-1)のデータは、24bitのA/D変換器で量子化され、digital filterで処理された後、以下のデータを保存している。80Hz連続データ(HHZ,HHN,HHE)、20Hz連続データ(BHZ,BHN,BHE)、1Hz連続データ (LHZ,LHN,LHE)、0.1Hz連続データ(VHZ,VHN,VHE)、0.0 1Hz連続データ(UHZ,UHN,UHE).STS-1地震計は約0.005m/sを越える入力に対して非線形的な応答をし、0.01m/sを越える入力に対してクリップするため、これらの入力を越える地震波形を扱う際は、併設されている速度型強震計(VSE311R)を用いる必要がある。VSE311Rは STS-1地震計と似た特性(地動速度に対して平坦な応答)をするが、0.4m/sあたりでクリップする特性となっている。今年度の観測点より、VSE311Rの後継機であるVSE355Rを用いている。VSE355Rは、低周波ノイズ特性が改善され、しかも、最大速度入力が2m/sと、従来機の5倍となっている。
速度型強震計のデータも、広帯域地震計と同じA/D変換器で量子化され、digital filterで処理されている。利用可能な成分は80Hz連続データ(HLZ,HLN,HLE)、20Hzトリガーデータ(BLZ,BLN,BLE)、1Hzトリガーデータ(LLZ,LLN,LLE)である。 これらのデータはすべてFREESIAのWorld Wide Web のページ(http://argent.geo.bosai.go.jp/freesia/index-j.html)より取得可能である。現在、ディスクスペースの制限により、提供できるデータは、過去2年分強程度であるが、ディスクの増強により、過去3年分のデータは自由にアクセスできる体制を整える予定である。データ取得のためのプログラムは、2年以上前に書いたものであるが、利用者の使い勝手がよいものとはお世辞にもいえない。近じか、より簡便にデータを取得できるよう、データ取得プログラムの更新を行う予定である。また、CDROMによるoff-lineデータ提供の体制も同時に整える予定である。

最後に

この広帯域地震データを用いて、防災科学技術研究所では、気象庁により、電子メールで配布される緊急震源情報をもとに、全自動でモーメントテンソルを決め、即時にWorld Wide Webおよび電子メールにて、その結果を公開している(福山・他,1998)。また、結果の信頼性を向上させるために、手動による再決定を1日程度の遅れをもって行っている。Webによる結果及び電子メールによる結果の購読は、上記に紹介した FREESIAのページからたどれるようになっているので、御利用いただければ幸いである。
なお、上記のデータを利用するに当たっての利用条件は該当するWeb pageに記されているので、最低限のマナーとして、遵守していただければ幸いである。

図1:1999年3月末現在の観測点分布(現在建設中の観測点も含む)
図1:1999年3月末現在の観測点分布(現在建設中の観測点も含む)

参考文献

福山 英一,石田 瑞穂,堀 貞喜,関口 渉次,綿田 辰吾
Freesia Projectによる広帯域地震観測, 防災科学技術研究所研究報告,57,23-31,1996.
福山 英一,石田 瑞穂,Douglas S. Dreger,川井 啓廉
オンライン広帯域地震データを用いた完全自動メカニズム決定
地震 第2輯,51,149-156,1998.

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