2019年度Awards

1.受賞対象論文

OpenSWPC: an open-source integrated parallel simulation code for modeling seismic wave propagation in 3D heterogeneous viscoelastic media

著者:Maeda, T.(前田 拓人), S. Takemura(武村 俊介) and T. Furumura(古村 孝志)
掲載誌:Earth, Planets and Space(2017)69:102

受賞理由

 地震動は、震源断層と地下物性構造を精密にモデル化した地震波伝播シミュレーションによって再現することができる。このシミュレーションは、地震学におけるひとつの基盤ツールとして、震源過程や地球内部の不均質構造の推定、また地表での強震動予測や地震ハザード評価まで、幅広い研究分野において利用されている。それには、地下の不均質媒質を如何に現実的な3次元の実問題として適用できるかどうかが重要となってくるが、その背景には1990年代のスーパーコンピューターの導入を端緒とする計算機性能の高度化、その後の計算機の高速化及び並列化技術の飛躍的な発展があり、それと連携することによってシミュレーション技術が革新し、実用化の基盤が構築されてきた。

 本研究は、ローカルからリージョナルスケールの3次元及び2次元粘弾性媒質における地震波動伝播の大規模並列差分法計算オープンソースコード(OpenSWPC)の開発を行ったものである。このコードでは、並列効率の高い計算アルゴリズム技術が新しく導入されただけで無く、対象とする研究分野ならびに計算機における高い汎用性とそれに見合う実用性を重視した改良が図られている点においても優れている。例えば、複雑な3次元地下の速度・減衰構造や、様々な震源過程に対応し、それらのインプットファイルの設定は可視化ツールが用意されている。また、計算結果である列島を横断する3次元地震波伝播プロセスの可視化ツールも同様にセットされており、実際的な工夫が随所に見られる。これまで波動伝播シミュレーションを行っていない人も使用しはじめるケースが多く、シミュレーション研究の活性化にも寄与している。

 現在公開されているコードは、直交座標系でのリージョナルスケールを対象としたものであるが、将来的な球座標系でのグローバルスケールへの適用について、既に実現化への目処が立っていると論じられており、今後より汎用性の高い基盤ツールとして地震学に貢献することが期待できる。

 以上の理由から、本論文を2019年度日本地震学会論文賞とする。

2.受賞対象論文

Variations in precursory slip behavior resulting from frictional heterogeneity

著者:Yabe, S.(矢部 優) and S. Ide(井出 哲)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2018)5:43 DOI: 10.1186/s40645-018-0201-x

受賞理由

 巨大地震の直前には、前震やスロースリップ等、多様な前駆的断層すべり現象が生じることが知られている。このような前駆的な断層すべりの挙動を理解することは、巨大地震の発生予測のためにも重要な課題である。しかし、そうした前駆的な断層すべり現象の物理メカニズムの理解は必ずしも十分ではない。

 本論文では、こうした多様な前駆的断層すべりを、従来のように巨大地震のすべり域を単一もしくは少数のアスペリティーとしてモデル化するのではなく、細かいスケールの固着部と非固着部が混在する摩擦特性が不均質な断層として表現することでモデル化できることを示した。具体的には、固着部と非固着部を速度状態依存摩擦則の速度弱化域と速度強化域として表現し、それらが交互かつ規則的に繰り返し配置される最も単純なモデルを設定し、それらに対して定常的に応力載荷を行うことによって、そのすべりの挙動を数値計算によって調べた。その結果、断層はほぼ周期的に一斉にすべり、巨大地震を引き起こす一方で、その前後で以下の特徴的な断層すべりの挙動が生じることを明らかにした。(1) 巨大地震発生後しばらくすると、固着部だけでなく非固着部も固着部に弾性的に引きずられて大きなすべり遅れを蓄積し、全体として見かけ上単一のアスペリティーとして機能する。(2) 巨大地震の前には前駆的スロースリップが確認される。固着部の強度が高い場合にはその領域は非常に狭いが、低い場合には断層面上の広い範囲に広がり、その内部に前震のような高速滑りを含むこともある。(3) 最終的な巨大地震の断層破壊は小さな固着部から開始し、大きな摩擦エネルギーを消費する非固着部を乗り越えながら拡大する。

 これらの結果は、固着部と非固着部を規則的に繰り返し配置するというきわめて単純な摩擦不均質を導入することで前駆的スロースリップや前震を説明できることを示すとともに、前駆的スロースリップの発生が固着部の強度によって特徴づけられることを示唆している。これら本論文が示す巨大地震の成長・拡大過程は、地震のスケーリングという震源物理の根本的な問題の解決に一つの方向性を示唆するものであり、その重要性はきわめて高い。

 以上の理由から、本論文を2019年度日本地震学会論文賞とする。

3.受賞対象論文

Adjoint tomography of the crust and upper mantle structure beneath the Kanto region using broadband seismograms

著者:Miyoshi, T.(三好 崇之), M. Obayashi(大林 政行), D. Peter, Y. Tono(東野 陽子) and S. Tsuboi(坪井 誠司)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2017)4:29 10.1186/s40645-017-0143-8

受賞理由

 波形インバージョン法による地球内部構造の推定は、高速大容量の数値計算を必要とするため、実際の構造への適用はこれまで限定的であった。本論文は、二つのプレートが沈み込む関東地域の複雑な地殻・上部マントルに波形インバージョン法を初めて適用し、観測波形の再現性を定量的に示しつつ、得られた3次元速度構造を地学的に解釈することに成功した先駆性の高い論文である。

 本論文では、140の地震イベントに対して関東周辺の16のF-net観測点で取得された約4400の波形に、波形インバージョン法の一種であるアジョイントトモグラフィー法を適用し、走時トモグラフィーで得られた既存の3次元構造を初期モデルとしてP波とS波の速度構造を推定した。解析には5-30秒の3成分変位波形を用い、関東地域を1600万節点で表現したメッシュ構造を用いたスペクトル要素法によってフォーワード計算とアジョイント計算を実施した。理化学研究所の「京」コンピューターを用い、計6720回のシミュレーションと約62000ノード時間という大規模計算によって16回のイテレーションを行い、最終的な速度構造モデルを得た。本論文の速度構造モデルは僅か16観測点の波形データから得られたものであるが、より多くの観測点の走時データを用いた初期モデルと比較して波形の再現性が24%改善されており、この新しい手法の有用性を示している。さらに、解析に用いていない18の地震イベントに対する波形を予測し、初期モデルに比べた波形の再現性が47%改善できたことを示している。本論文で得た3次元速度不均質構造は、初期モデルと整合的な空間パターンを示しているが、初期モデルに比べて顕著に遅いS波速度異常域を検出しており、本論文の手法によって蛇紋岩の存在や火山活動をより高分解能で検出できる可能性を示している。

 近年の走時トモグラフィー法の発展により、地震学は固体地球内部の理解を深める上で極めて重要な役割を果たしている。近年のスーパーコンピューターの進歩を背景として、波形インバージョン法というさらに新しい手法を開拓した本論文は、既存の手法の持つ限界を超えて地球内部の新たな理解をもたらす可能性を秘めたものであり、今後の内部構造研究に大きな意義を持つものである。

 以上の理由から、本論文を2019年度日本地震学会論文賞とする。

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