2020年度授賞論文Awards

受賞論文:角田・弥彦断層海域延長部の活動履歴─完新世における活動性と最新活動─

著者:大上 隆史,阿部 信太郎,八木 雅俊,森 宏,徳山 英一,向山 建二郎,一井 直宏
掲載誌:地震第2輯第71巻(2018)63-85頁
DOI:https://doi.org/10.4294/zisin.2017-9

受賞理由

沿岸海域における活断層は、ひとたび活動すると地震の揺れや津波によって様々な災害が想定されるため、その位置や活動性を解明することは学術的にも社会的にも重要である。特に2007年能登半島地震や同年新潟県中越沖地震の発生によって沿岸海域活断層の評価が喫緊の課題として認識され、以来、日本列島の各海域で重点的に調査が進められている。その1つである角田・弥彦断層の海域延長部について、本研究は様々な手法を駆使し、活断層の評価において必要な情報を精度良く取得することに成功した。

ひずみ集中帯に位置する角田・弥彦断層は、長岡平野西縁断層帯の北部区間をなし、高い活動度を示す逆断層として知られている。この断層が海域に延長することは海底地形から推定されていたが、その正確な位置・形状や活動履歴については不明であった。一般に海域活断層の調査は、陸域活断層のように地形や地層を直接的に観察することができず、音波探査やコアリングなどの間接的な手法で探っていくため、活断層評価に必要なパラメータを精度良く取得するには、より綿密な調査計画とデータの詳細な解析が求められる。本研究は現状で考えうる調査・解析手法を網羅し、それらを着実に実行している。まず総延長166kmに渡る高分解能な音波探査を実施することで、断層の分布を明確に示した。その中から良好な音波探査断面が得られた測線を選定し、2-10kHzの高周波音波探査を行うことで50cm以下の層構造を捉え、海底下50m程度までの精密な地下構造断面を得ることに成功した。

次に断層を挟んでバイブロコアリングを実施し、試料を採取するとともに、コア長約50mの既存の海上ボーリング試料も用い、探査断面と堆積物との対比によって、同時間面を明確にした。そして多数の放射性炭素(14C)年代測定によって、10.8ka以降の堆積速度を明らかにした上で平均上下変位速度を推定し、活動頻度や最新活動時期を100年単位で絞り込むことに成功した。さらにバランス断面法によって地質構造を解釈することで、最新活動における上下変位量も推定している。

このように本論文は、角田・弥彦断層の海域延長部において、活断層評価に必要なパラメータをもれなく取得し、その活動性を明らかにした。この成果は地震調査研究推進本部の長期評価をはじめ、地震災害予測の精度向上に貢献する重要な知見であるだけでなく、今後の沿岸海域活断層調査のスタンダードを示したと言える。

以上の理由から、本論文を2020年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

受賞論文:1990年から2016年の間に新聞メディアで報じられた地震学ニュースの内容分析

著者:山田 耕
掲載誌:地震第2輯第71巻(2019)161-183頁
DOI:https://doi.org/10.4294/zisin.2018-2

受賞理由

地震学は、現象に伴う災害が甚大になることが多く、社会と関わりが深い学問である。このため、地震学は学界の知見を国民に積極的に還元するよう社会からの要請が強い学問分野の一つとも言える。兵庫県南部地震以降、「地震学の知見」がどのように社会に還元されてきたか、この点を日本地震学会が理解することは重要であるが、その変遷をたどるのは容易ではない。世論が地震学に抱くイメージとその変遷を理解することは、我々の成果と社会とのつながりを理解する上で不可欠である一方で、このような研究事例はそれほど多くはない。

本研究は、発行部数の多い全国紙3紙に掲載された1990年から2016年までの27年間における地震学関連記事19,360本に対して、機械学習を用いて内容を定量的に分析した。この結果、時系列変化の分析では、地震災害時だけではなく、平常時においても地震学関連情報への社会的関心が高いことが定量的に示された。また、機械学習を用いたトピック分類から、「海溝型巨大地震に対する防災計画」と「地震予知・予測」などのトピックが、他のトピックと比べて社会的関心が高いことが示された。また、2011年東北地方太平洋沖地震後であっても「地震予知・予測」に関する肯定的な記事が多いことや、地震予知の限界に理解を示しつつも期待感を持った論調が継続されていることが明らかにされた。その上で、社会が不確実性を伴う地震予測を適切に活用するためには、確率論的な地震予測に対する丁寧な説明姿勢に加え、メディアとの間を取り持つ中間組織の支援の推進が求められると結んでいる。これらの成果は、社会における地震学への見方を定量的に明確化した。

本研究は、機械学習を用いて地震学関連記事から特徴を抽出し、定量的な分析を行った。これらの成果は地震学においても学術的意義も高く、また、地震学が置かれた現状と今後どのように社会・世論と接していくべきかをデータに基づいて論じた重要な研究である。

以上の理由から、本論文を2020年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

受賞論文:Fault model of the 2012 doublet earthquake, near the up-dip end of the 2011 Tohoku-Oki earthquake, based on a near-field tsunami: implications for intraplate stress state

著者:Kubota, T.(久保田 達矢), Hino,R.(日野 亮太), Inazu, D.(稲津 大祐)and Suzuki, S.(鈴木 秀市)
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science(2019)6:67
DOI:https://doi.org/10.1186/s40645-019-0313-y

受賞理由

本研究は、2012年12月7日に太平洋プレートの海溝軸近傍で発生した2つの地震の詳細な震源解析に基づいて、2011年東北沖地震による海洋プレート内部の応力場変化を推定したものである。

海溝軸近傍のプレート内部では、プレートの折れ曲がりによって、浅部、深部にそれぞれ水平引張、圧縮場を生じ、その境界が中立面となる。2011年東北沖地震の発生によって、引張場で生じる正断層型の微小地震活動の下限が25kmから35kmに深化したとの報告もあったが、詳しいことはわかっていなかった。2012年12月7日に、プレートの深部(~60km)で逆断層型の地震が、浅部(~20km)で正断層型の地震がほぼ同時に発生するというM7級のイベントがあった。著者らは、この二つの地震の有限断層モデルを明らかにすることで、太平洋プレート内部の応力分布を調べることを着想した。そして、遠地地震波形と余震分布の解析に加えて、東北大学のグループが2011年以前より継続して展開してきた海底水圧計アレイが観測した震央近傍の津波波形を用いた詳細な解析により、2つのサブイベントの有限断層モデルを高い解像度で求めることに成功した。その結果、プレート浅部で生じた正断層型地震の断層面の下限が深さ35kmと推定され、東北沖地震前の正断層型地震活動の下限(25km)よりも有意に深くなっていることを示すことができた。著者らは、東北沖地震について求められた応力解放量(~20MPa)を用いてこの変化を説明することを試み、プレート形状から期待される応力プロファイルと断層強度プロファイルとの定量的な比較を行っている。その結果、通常期待される摩擦係数(0.6)の下では、観測された中立面の深化には300MPaの応力変化が必要となってうまく説明できないことがわかった。さらに著者らは、流体などの存在によりプレート表面から深さ30~35kmまでの範囲の断層の摩擦係数が0.2より小さくなっているとすることで、本研究の観測結果を東北沖地震の応力解放量と整合的に説明できることを示した。

本論文は、東北沖地震後に大地震の発生が懸念されるアウターライズ域で発生する海洋プレート内地震発生域における応力・強度状態を定量的に明らかにするとともに、沈み込む直前の海洋プレートがうける構造改変過程の解明に資する知見も提供した。いずれも沈み込み帯における地震テクトニクスの理解に重要な貢献であると言える。

以上の理由により、本論文を2020年度日本地震学会論文賞受賞論文とする。

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