2020年度受賞者Awards

受賞者:麻生 尚文

受賞対象研究

多角的な視点による地震波動源物理学

受賞理由

火山型深部低周波地震は、地殻下部での唯一の地震波動生成現象であり、その物理メカニズムの解明は、地殻深部からの流体供給過程等の理解に必要不可欠である。しかしながら、この現象は発見から30年以上経ってなお、地震学上の難問となっている。受賞者の地震学への最大の貢献は、同現象の物理的理解を深めたことである。受賞者は近年の稠密地震観測網のデータへ自ら開発した手法を適用し、火山型とテクトニック型との明瞭な違いを発見すると同時に、火山活動がない地域にも、火山型に類似した深部低周波地震が起きていることを発見した。提案された分類に端を発し、今ではこれらの地震は「準火山型」として当該分野に知られている。また、島根県東部で発生する深部低周波地震がCLVD型であることを突き止め、さらにその際に提示した震源型ダイアグラムについてのレビューは、複雑な震源を取り扱う研究者の道標となっている。受賞者はこれらの地震の物理的駆動力の解釈として、一連の解析結果を通しマグマ冷却による熱応力という、全く新しい先駆的なモデルを提案した。

さらに受賞者は、断層破壊力学分野において確率論的な考えの導入を進めた。地震発生に関わる物理量や物理法則をすべて厳密に決定することは不可能で、決定論的議論には限界がある。そこで運動方程式に確率論的擾乱を加える新たなモデル手法を提案した。このモデルはシンプルながら、クラック的・パルス的な通常地震のほか、スロー地震の細かな特徴まで再現することができ、断層破壊力学の常識を一変させる可能性を秘めた発展性の高い研究といえる。

この他にも受賞者は、地震波干渉法と逆伝播法を用い氷河の流動の解明に貢献した他、スロー地震データベース、点震源での破壊指向性解析、すべりインバージョン、地震波に類似した脳波のモデリングなど、対象やアプローチを問わず多岐にわたる地震波動源の物理的理解に貢献してきた。こうした多様な研究成果を生み出してきたことは、従来の固定観念にとらわれない受賞者の多角的な視点と、それを可能にする豊富な知識ならびに思考力の高さを示している。最近では、自ら構築した深部低周波地震の物理モデルの検証のため地震観測を精力的に行うなど、新たなことに挑戦し続ける姿勢も評価できる。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:大谷 真紀子

受賞対象研究

巨大地震発生機構の理解と予測可能性に関する地震発生サイクルシミュレーション研究

受賞理由

地震が繰り返し発生する過程を計算機上で実現する地震発生サイクルシミュレーションは、実験室で再現することのできない大地震の発生に至る物理的機構を調べるための非常に強力な研究手法である。受賞者は、効率的な大規模数値計算法を開発すると共に、スロースリップから大地震までの多様なすべり現象を再現する物理モデルを構築することにより、地震発生サイクルシミュレーション研究の発展に大きく貢献した。

地震発生サイクルシミュレーションを3次元で高精度に行うためには、大量の数値計算が必要である。受賞者は、応用数理分野に端を発した密行列圧縮法であるH行列法を当該分野に導入し、計算コストを大幅に低減した高速数値計算コードの開発に成功した。これにより断層面の複雑な幾何形状ならびに摩擦不均質の取り扱いが容易となったことで、より現実的な設定を取り入れた地震発生サイクルシミュレーション研究への道が開けた。その成果を活かし、沈み込む海山列の形状の効果により摩擦すべりが安定化される機構を見出したことや、海溝等の沈み込み帯の地形が地震発生に与える影響を明らかにしたことも評価される。

さらに、巨大地震とスロースリップが自発的に発生する物理モデルを構築し、2011年東北地方太平洋沖地震を模した巨大地震発生サイクルにおいては、先行するスロースリップが必ずしも巨大地震の前兆とはならないことを示した。また、南海トラフで発生する巨大地震に対して、大きな前駆すべりが大地震をトリガーする確率を計算し、前駆すべり発生の3日後にその確率が急減するという、今後の地震防災に繋がる可能性を秘めた成果を得た。この他、周期的スロースリップが巨大地震の発生周期を引き込む同期現象を1自由度モデルで見出すなど、非線形応答に関する興味深い研究も展開している。

巨大地震発生機構の理解と予測可能性の研究は、高い数値計算能力と独創性が必要とされる地震学の重要課題であり、この分野における数値計算法の基本的枠組を提供し、さらに各種モデルを構築して巨大地震に関する様々な知見を引き出してきた受賞者の今後の一層の貢献が期待される。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:髙木 涼太

受賞対象研究

地震・地殻変動多点連続観測データに基づく地球内部広帯域変動現象の研究

受賞理由

高密度の地震・地殻変動観測網における連続観測データは、新たな解析手法の開発を促し、新現象の発見につながるなど、地震学の発展の基礎となっている。受賞者は、地球内部に生じる様々な時空間スケールの変動現象の解明のため、多点連続観測データに基づく解析手法の開発や高度化に取り組んできた。また、それらの手法を実データへ適用し、地球内部構造の時空間変化やプレート境界におけるスロースリップイベント(SSE)の活動様式に関する卓越した業績をあげてきた。

受賞者は、新たなツールとして注目されつつあった地震波干渉法を用いて、2008年岩手・宮城内陸地震と2011年東北地方太平洋沖地震よる地殻構造変化を検出するとともに、地震波速度変化の空間分布やS波偏向異方性の時間変化などの研究分野に新たな視点を付け加えた。さらに、波動理論に基づく実体波と表面波の分離手法の開発、地震波干渉法の基礎データである脈動の指向性推定手法の開発、観測記録に含まれる微小な機器ノイズの除去手法の開発を行い、大規模な実データ解析によって手法の有用性を示した。受賞者が独創的な手法開発により地震波干渉法の適用範囲の拡大を実現してきたことは特筆すべきことであり、将来的に地球内部構造の時空間変動のより深い理解につながる極めて重要な貢献である。

受賞者は、地殻変動データ解析にも精力的に取り組み、年単位の時定数を持つ長期的SSEを系統的に検出する新たな手法を開発し、南海トラフにおける詳細な長期的SSE活動様式を解明した。長期的SSEと固着分布の空間相関性および長期的SSEの大規模な空間移動現象の発見は、プレート境界における長期的SSEの描像を新たにするとともに、巨大地震と長期的SSEとの関連性を示唆する重要な成果である。また、受賞者が明らかにしたSSE活動は、隣接領域で発生する深部低周波微動や繰り返し地震活動の時空間変化の理解にも大きな役割を果たしている。

このように、受賞者は、独自の視点や発想に基づき、理論的能力を活かした手法開発と卓抜した技術に基づく大量かつ精緻なデータ解析により、データが持つ情報を可能な限り引き出し、多点連続観測に基づく地震学の新たな発展に大きく貢献してきた。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

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