2021年度受賞者Awards

受賞者:久保 久彦

受賞対象研究

地震破壊過程の解明とデータ駆動型研究による地震動モデルの高度化

受賞理由

確度の高い地震破壊過程を客観的に推定するためには、観測記録に適した情報量の取り扱いが効果的である。また、大地震のような低頻度大規模現象を含めたデータ駆動型研究においても、その威力が発揮される。受賞者は、観測地震動に基づく研究によって大地震の震源過程と強震動の成因やその予測に関する重要な知見を得てきた。また、データ駆動型研究にも取り組み、機械学習と物理モデルを組み合わせた地震動指標の予測高度化を行う等、大きな成果をあげてきた。

地震破壊過程の解明に関しては、2011年東北地方太平洋沖地震や2011年茨城県沖の地震、2016年熊本地震等に対して地震波形記録等に基づく解析を行い、それらの断層破壊過程と地震波放射の詳細を明らかにするとともに、沈み込む海山や隣り合う他のプレートが断層破壊に与える影響や、スロー地震発生域との空間的な関係、プレート境界大地震における放射地震波の周期特性の詳細な深さ依存性等、プレート境界の震源理解において新たな視点を与えた。また、データの粗密を巧みに利用して、地震波形を用いた震源過程解析にフルベイジアンアプローチを導入した研究や、未知パラメータとその最適な次元を推定するトランスディメンジョナルインバージョンが断層すべり分布推定において有用であることを示した研究など、情報学の制約を取り入れた地震破壊過程の解析手法を開発している。

データ駆動型研究による地震動モデルの高度化に関しては、海域地震観測網の地震動増幅特性や強震時の非線形地盤応答に関する研究、深発地震による地震動予測式の提案など、未開拓の分野に挑戦した。さらに地震動ビッグデータと機械学習を組み合わせたデータ駆動型研究を進めている。地震動指標の予測問題においては、強い揺れの記録が少ない地震動データセットに対して機械学習を行うと、防災上重要な強震動が過小評価される予測バイアスが生じることを明らかにした。解決策として、物理モデルに基づく従来の予測式による予測と観測の残差を学習した機械学習モデルを作成し、それと従来の予測式を組み合わせたハイブリッド予測アプローチを提案して、単一の手法に比べて優れた予測性能を得ることに成功した。このように、自然現象に内在する不足情報を活用して成果を上げた姿勢は高く評価され、今後の研究展開において受賞者の一層の貢献が期待される。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:竹尾 明子

受賞対象研究

広帯域海底地震観測データの表面波解析によるリソスフェア・アセノスフェアの成因に関する研究

受賞理由

海底地震観測データを用いた海域下の地震波速度構造と方位異方性に関する研究は、リソスフェア・アセノスフェアの構造とその成因を紐解く上で極めて重要である。受賞者は、広帯域海底地震計データに対して、地震波干渉法・遠地地震波解析による表面波の広帯域分散測定法を開発するなど、先駆的かつ独創的な研究によって顕著な業績をあげてきた。

受賞者は、新しく開発した地震波干渉法・遠地地震波解析を四国海盆下に適用し、リソスフェア・アセノスフェア境界付近の鉛直異方性を明らかにした。この解析手法は広帯域海底地震観測に新たな方向性を示し、東京大学地震研究所を中心とした国際的観測計画でも標準的解析手法として活用されている。また、この解析手法を北西太平洋の海底地震計データにも適用し、リソスフェア・アセノスフェアの地震波速度構造と方位異方性を推定し、その成因の研究に一石を投じた。さらに、海底地震計データの解析にあたり、地震波干渉法を用いた新たな時刻補正手法を開発した。このような研究経歴と高度な地震波形解析技術を踏まえ、問題に即した独自の手法開発を通じて地球科学上の重要課題を探究する姿勢は高く評価できる。

この他にも受賞者は、低周波地震を対象とした広帯域地震観測の研究に取り組み、深部低周波微動を基準とした広帯域地震波形記録の重合によって、単独では検出の難しい微小な低周波地震の存在を明らかにした。今後の地震学の発展には、細分化された分野間の垣根を越え、その対象領域を押し広げていくことが必要であり、受賞者のように広範かつ独自の視点で研究対象を広げていく姿勢が期待される。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:矢部 優

受賞対象研究

多角的アプローチによるスロー地震を中心とした沈み込み帯地震学研究

受賞理由

スロー地震は沈み込み帯において頻繁に発生している現象であり、巨大地震の準備過程においても重要な役割を果たしていると考えられている。受賞者は、スロー地震を中心とした沈み込み帯における地震現象を包括的に理解するという目的に向かって、地震波形解析、数値計算、測地データ解析、地質データ解析、地震観測研究などの多角的なアプローチを組み合わせて研究活動を行ってきた。特に、スロー地震活動の地域性の解明や摩擦不均質断層の滑り挙動の解明など、沈み込み帯地震学研究に対して大きく貢献してきた。

受賞者は、スロー地震の中でもテクトニック微動と呼ばれる現象を対象に、世界の沈み込み帯の深部微動や南海トラフ・日本海溝の浅部微動など、様々な発生環境の現象に対して統一的な地震波形解析の手法を用いて震源パラメーター推定を行うことで、スロー地震活動を定量的に評価し地域間の比較を可能にした。この成果は、発生環境とスロー地震活動の特徴を対比し、現象を支配する要因を今後検討していく上で重要な貢献である。また、上記の地震波形解析の研究から得られた摩擦不均質断層という発想をもとに断層破壊数値計算にも取り組み、不均質性が巨大地震前の前駆的地震活動の有無や前駆的非地震性滑りの卓越具合、余震生成を支配していることを解明した。特に前駆的活動に関する研究は、2019年度の日本地震学会論文賞を受賞するなど高い評価を受けている。

この他にも受賞者は、測地データを用いたスロー地震解析や、浅部プレート境界周辺の地質学的データ解析、DASや回転地震計などを用いた観測研究に取り組むなど、沈み込み帯地震学の理解に向けてアプローチの幅をより一層広げている。沈み込み帯における地震現象の理解という大きな目標に向かって、多角的なアプローチで研究を行う受賞者の研究姿勢は特筆すべきものであり、今後の研究展開において更なる貢献が期待される。

以上の理由により、受賞者の優れた業績と高い研究能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

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