2019年度Awards

受賞者:浦田 優美

受賞対象研究

物理素過程と応力場を考慮した3次元動的地震破壊過程の研究

受賞理由

 大地震に至る要因の一つとして、thermal pressurization(摩擦発熱による間隙水圧上昇による断層摩擦の弱化;以下TP)がある。TPは、理論的にも地質学的観察からもその発生が予想されていたが、断層の破壊過程に具体的にどのような影響を与えるのかは良く分かっていなかった。受賞者は、当時、技術的に困難であった3次元動的破壊伝播の数値計算を行い、TPによる破壊速度の増加やすべり分布の不均質化をもたらす効果などを定量的に明らかにした。また、水の相変化の効果を世界で初めてTPの数値計算に取り入れた研究は、受賞者の優れた独創性を示すものと言える。TPは2011年東北地方太平洋沖地震の巨大化に寄与したことが報告されており、受賞者が東北地震に先駆けてTPの力学的機構を解明した意義は大きく、その研究成果は高く評価される。

 受賞者は、上記の基礎的な理論研究に加え、岩石摩擦実験や自然地震のデータを基にしたモデリング研究により、不安定すべり時のデータから摩擦パラメータを推定する手法を確立するなど、地震発生機構の理解を進展させることにも貢献した。さらに、2016年熊本地震の力学条件に着目し、データ解析と大規模シミュレーションによって、前震―本震系列を再現するために必要となる背景応力場と断層摩擦パラメータの条件を求めることに成功したことも意義深い。

 理論研究ならびに観測データと大規模数値シミュレーションを基に新しい知見を着実に生み出し続けていることは、受賞者の高い数理的能力だけでなく、自然現象に対する鋭い洞察力、綿密な計画力とそれを完遂する実行力を示している。加えて、野外観測研究・室内実験などの幅広い分野に活動範囲を広げ、独創的な研究の素地を作っている。2017年EGU学会では招待講演を依頼されるなど国際的にも活躍しており、地震発生機構の解明・予測研究の発展に一層貢献することが期待される。

 以上のように、受賞者のすぐれた業績と高い能力を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:吉田 圭佑

受賞対象研究

自然地震データに基づく応力と断層強度に関する研究

受賞理由

 応力の大きさと断層の強度を知ることは地震学の基本的な課題である。しかし、我々はそのどちらについても広域に直接測定する手段を持ち合わせていない。受賞者はこの課題に果敢に取り組み、下記に挙げた大きな成果を得た。

 受賞者は、稠密地震観測網のデータを用いて空間解像度を上げた応力逆解析を行うことにより、2008年岩手・宮城内陸地震に伴う応力の変化を検出し、本震を起こした差応力を約20MPaと推定した。このような大地震に伴う応力の変化と小さな差応力を、その後の2003年宮城県北部地震、2011年福島県浜通り地震、2016年熊本地震についての詳細な解析からも示した。一方で、東北日本の主応力方向の空間分布を求め、得られた応力分布が地形と良い相関を持つこと、地形の効果を入れた数値モデルにより応力分布を良く説明できることを明らかにし、差応力を約20MPaと推定した。推定が極めて難しい差応力の大きさを、異なる2つの方法でほぼ一致した値として推定できたことは、地震を発生させる地殻の応力場を理解する上で極めて重要な貢献である。受賞者は、フィリピン下の地殻応力状態についても調べ、主応力方向がフィリピン断層に沿って大きく回転していることを見出し、この主応力の回転が断層面に沿う固着の非一様分布で説明できることを示した。断層面の滑り欠損の情報はこれまで観測データのある期間の情報としてしか抽出できなかったが、本手法により固着開始からの積算の情報として抽出できる可能性が示され、地震発生応力場の理解に大きく貢献した。

 さらに、受賞者は、2011年東北沖地震により誘発された山形・福島県境群発地震について詳細に調べ、この活動が直下からの流体の上昇により誘発されたことを示すとともに、活動初期においてb値が異常に大きく強度と応力降下量が小さかったこと、それらが時間の経過とともにそれぞれ低下および上昇し、通常時の値に近付いていったことを明らかにした。そして、このような時間変化は、間隙流体圧が活動開始直後に非常に高く、その後流体の拡散につれて次第に低下すると考えれば統一的に理解できるとした。これは、b値や応力降下量が断層強度の指標となることを示す重要な結果であり、今後の研究に大きな影響を及ぼすと期待される。

 以上のように、受賞者のすぐれた業績を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

受賞者:吉光 奈奈

受賞対象研究

地震発生環境の理解に向けた室内岩石実験から自然地震までの架け橋

受賞理由

 受賞者は、岩石試料から小規模誘発地震、自然地震に至るマルチスケールの破壊発生環境の理解の深化に向け、実験室や鉱山など多様なフィールドにおける観測・計測の実施、波形記録の詳細解析、数値シミュレーションといった多面的なアプローチで、室内実験から自然地震までを架橋する独自性の高い研究に精力的に取り組んできた。

 受賞者は室内実験と小規模誘発地震の発生環境下における破壊に至る過程について、弾性波挙動の変化を通して、その理解に大きな進展をもたらした。実験室では、高圧下においても広帯域かつ超高速連続波形収録が可能なシステムを自ら開発し、その収録システムを用いて三軸圧縮破壊試験で岩石破壊強度到達後に亀裂が急激に成長し破壊面を形成する過程を弾性波速度及び減衰の変化から明らかにした。また、室内実験環境では試料サイズが有限であるため、これまでは主に直達波が利用されており、複雑な後続波は活用されないまま残されていたが、これを実験室スケールの円柱形岩石試料内の弾性波動伝播の3次元差分法シミュレーションで詳細に再現し、反射・変換波や表面波などの後続波を含む全波動場を活用した微小破壊現象モニタリングへの道を拓いた。そして、南アフリカ金鉱山での震源極近傍観測で得られた小繰り返し地震の波形を丹念に調べ、地震に先行した微小破壊により断層帯を通過する地震波が減衰することを発見した。

 さらに、受賞者は広ダイナミックレンジのスケーリング則の再検討を通じて、室内実験から自然地震までを統一的に理解するための研究開発を精力的に進めている。実験室スケールにおいては、上述の波形収録システムを活用した三軸圧縮破壊試験から、実験条件下での微小破壊が自然地震と同じスケーリング則を満たすことをはじめて明らかにした。一方、自然地震のスケーリングにおいて、推定値の誤差が大きい応力降下量の高精度推定手法を開発し、オクラホマにおける誘発地震の応力降下量の高精度推定を実現した。近年はベイズ統計学を専門とする数学者と協働し、応力降下量をはじめとした震源パラメータおよびその統計的分布のさらなる高精度推定のための研究を続けている。

 以上の理由により、受賞者のすぐれた業績を認め、その将来の活躍も期待し、日本地震学会若手学術奨励賞を授賞する。

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